素通り禁止?!無人販売
78%KAKEGAWA Vol.59 1985年2月号掲載
ここ2〜3年、掛川の周辺市町村で無人販売の小屋が目立ち始めてきた。この地域以外も車でよく走るが他ではあまり見かけない。無人販売はこの近辺だけの現象のようである。

自動販売機も無人販売に入るのだけれど、今回の場合は、野菜や果物などを簡単に組み立てた小屋の中に並べておいて、書いてある金額の表示に従って、所定の場所へお金を入れ商品を買うことを指す。

お金を誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化すことが出来るし、人のいる商店と違って、至れり尽くせりのサービスもない。生産者と消費者との相互の信頼関係で成り立っている商売とも言える。

スーパーや八百屋で売られている市場価格を参考に売っているところ、三分の一ぐらいの価格で売っているところ等、価格に関してはまちまちだけど、新鮮さに於いては補償付きだ。

この無人販売は以前からあったが、いつの間にか消えてしまった。それが、特に昨年辺りから急に増えだした。それも主に東海道線を境に南側に多い。これは、「あそこでやっているから家でもやってみよう…」という連鎖反応的な要素が大きいと思う。

今回は、無人販売に興味を覚えた事と、どこで何を売っているのかを知って貰いたくて特集を組んでみました。大量に買い込める物でもないので、わざわざ出かけていく程のこともないと思うが、通りかかったら立ち寄ってみて下さい。但し、お金は必ず正しい金額で入れることをお願いします。
上内田で一番最初に出来た無人販売所
たまたま道を尋ねに立ち寄った上内田のサンアイ堂薬店の軒先で、みかんとキウイフルーツの無人販売が目に入った。この店の親戚の平野正俊さんが毎朝持ってくると聞いて、早速自宅を訪ねてみた。

自宅に入る手前の農園に、ブドウ棚に似たキウイフルーツの樹が一面に見える。11月に収穫を終えて、今は剪定の時期に入っている。平野さんのお宅には日本全国そして世界各国から農業研修生が絶え間なくやって来る。

この日はブラジルからやってきたという日系三世の大木健児さんがキウイの剪定をしていた。昨年の11月にやって来て3月頃までいる予定。よっぽど居心地が良いのか、本人は7月頃まで居たいと言っているそうです。

平野さんのお宅は元々はみかん農家で、みかんの輸入自由化が問題になり始めた頃に、「敵(アメリカ)の産地を見ないで、ただ反対するだけでは能が無い」と、昭和49年〜昭和51年(1974〜1976年)の2年間、アメリカに渡った。

その時の大学研修で、たまたまキウイフルーツと出会い、それがきっかけでキウイを作るようになったと言う。現在はみかんとキウイ、お茶の三本立てで生計を立てている。

キウイは日本では新しい作物でもあり、まだ研究段階ではあるが、平野さんは、より良い物を作ろうと頑張っている。農薬を使わない等、自然農法の実践者でもある。

無人販売で売られているキウイは、「はっきり言って形のいい物は置いてないんです。段階が7段階有って、一番下の階級なんです。だけど、味は全く変わりません。やっぱり、できるだけ安く出してあげたいと思っているので…。こんなものでも、店頭に並べられられると結構高い値がついてしまうんです。」ということで、無人販売には100円、200円のパック詰めが並べられる。

味は輸入されている物に劣らない。かえって日本の物の方が味が良いと、平野さんは自信を持って言う。それは、輸入物は選別機に掛けられたり、長い距離を輸送されてくるため、その間にかなり味が落ちてしまうからで、みかんでも選別機にかられたものとかけない物では「味が全然違う」と言う。選別機にかけていない新鮮なものが食べられるのも、地元で生産されているからこそである。

キウイは収穫の時期を誤ると味がぐっと落ちてしまう。果実が甘くなる11月頃から霜が降りない内に穫るのがコツ。収穫後は冷蔵庫で保存される。そして、その後は食べるタイミングを誤らないことだ。無人販売で売られているキウイは、3〜4日後位が食べ頃なので、美味しい時期を逃がさないように食べて下さい。

もう一つのみかんの方ですが、こちらもみかん本来の酸味と甘味がほどよく調和していて、みかんらしいみかんと言える。100円、200円、300円の三種類が置いてある。このみかんとキウイの無人販売は、4月上旬頃まで無休で営業(?)するそうですから、通りがかったらぜひ買い求めてみてください。(毎年11月〜翌年4月頃まで販売している。)

無人販売というのはお店の人がいないから、どうしてもお金を誤魔化されたり盗まれたりする。ところがここだけは、金額が合わないなんていう事は殆ど無いらしい。「最初の一週間は、買い方がわからなかったらしくて、いろいろ説明書きを加えたりしていって、今は殆ど合っています。時々足りないことがあっても、翌日になると必ずその分が入っているんです。持ち合わせがなかった人が、翌日に入れてくれるんですね。」と、喜ばしい結果が出ているそうです。

お土産にいただいたキウイは「一週間後くらいが食べ頃」と言われたが、ついつい手が出てしまって2日後に試食をしてみた。少し酸っぱかったけれど、適度に甘味もあって美味しかった。5日後が楽しみだ。
無農薬のキウイとみかん(サンアイ堂薬店前)。
キウイ農園の前で(左が大木さん、右が平野さん)。
枝がついたままのキウイもお土産にいただいてしまった。
レタスの暴落がきっかけに…
上内田の県道掛川大東線沿いにある無人販売は、松本幸吉さんと原野唯男さんが共同で出している。

昨年の11月にレタスが大暴落し、大きなレタスが1個50円ぐらいになってしまった。消費者には嬉しいが、生産者にとってみれば、肥料や人件費を考えたらとてもやっていけない。そこで始めたのが無人販売だ。

「最初は大っきいので1個50円で売ったんです。50円でもやっていけないけど、町で売っているのより高くするわけにもいかないので、町で売っている相場の値段で売りましたよ。ただ、同じ値段でも、新鮮で瑞々しいものだから買ってもらえるんじゃないかなと思って…。」と松本さん。

朝の8時頃に50〜100個置いておくと、夕方には大体売り切れてしまう。レタスの他にも、じゃがいも等の野菜も一緒に出している。取材中には収穫が少なくて出ていなかったが、このタウン誌が出る頃の1月下旬には、また出せるようになるとの事。レタスは3月頃まで出すのだそうだ。

ここでも、一回だけ、お金とレタスを全部持って行かれた事がある。お昼に回収した後だったので、被害は小さかった。その他にも、お金が合わなかったり、1円がはいっていたりすると言う。
今はレタスの収穫が少なくて休業中。
野菜があった!
サンアイ堂薬店から東の菊川方面に向かっていくと、森下デンキ店と加村農薬の中間ぐらいに野菜の無人販売小屋があった。

大根3本100円、ねぎ1束50円、レタス1個100円、白菜2個100円と書いてある。野菜を置いてある台の上には、大根(細いのが)3本と、レタスが7、8個残っていた。レタスは新鮮そのもの。1個買ってみる。

お金を入れと書いてあるファンタのビンを覗いて見たら、700〜800円入っていた。これが今日の売上げだろうか。ちなみに、その日スーパーで値段を調べてみたら、同じ大きさ位のレタスが1個145円だった。
レタス1個100円也。商売繁盛?!
上内田には全部で6カ所もある
「鮮度バッチリ」、「長々とおつき合いしたいと思います」、と書いてあったのは、やはり上内田の無人販売所。「どれでも一品百円。必ず百円入れてネ。最近ドロボウーさんがおりますのでカギ付きといたします。カメラが見てますョ」とも書いてあった。

人が人を信じられないなんて、なんとなく淋しい気もするが、これが現実なのです。お金を入れるサッポロビールの生ボトルの空き缶が心なしか淋しそうに揺れていました。

この無人販売所のすぐ向い側には、少々キズ有りのキウイフルーツだけの販売所がある。さらにそこから1キロも走らない内に、菊川アサヒ化工の工場の前に、レタスだけを売っている無人販売もあった。

掛川の上張を通って、上内田から菊川に抜ける道路沿いに、合計6カ所の無人販売所が有る。夕方だったので、商品を引き上げてしまった後なのか、今は野菜が収穫できないのかわからないが、野菜が置いてあったのはたったの2カ所だけであった。
やっと見つけたスーパーより安くて新鮮なレタス。
野菜無人販売 鮮度バッチリ
少々キズ有り 無人販売 野菜
無人販売 野菜 レタス100円
主に夏場だけの無人販売
国道一号線沿いの薗ヶ谷にある信号機のそばに、ポツンと建っている野菜の無人販売小屋。気をつけて見ないと見過ごしてしまいそうである。ここで無人販売を営んでいる小川辰治さんのお宅では、6月から9月の間だけ無人販売をしている。

主にトマト、キュウリ、茄子が多いが、その他にも柿、じゃがいも、玉ねぎなどを出すこともあるという。ビニールの袋に詰めて、50円、100円均一で売っているので、売上額といっても一日に500円から1,000円程度にしかならないと言う。

その少ない売上げ金も、そっくり持って行かれたことが4〜5回はあったというが、そんなことは一向に意に介さない様子で、「今年も続ける積もりですよ。」と言う。「息子が、菊川の方でやっているから、家でもやってみたらどうかって、勧めてくれたのがきっかけで始めたんですが、トマトなんか新鮮でおいしいと、喜んで買ってくれる人もいますからね…。」と話してくれた。

冬場はこれといったものもないし、近所でもいろいろ作っているので、ほとんど無人販売小屋に並べられることはないが、5月か6月頃に美味しい新鮮なトマトが再び並ぶことになりそうだ。

「写真を撮らせてもらいたい」とお願いしたら、「何にも並んでないんじゃあカッコがつかんで、大根でも並べとくか。」と、家のすぐ前にある畑から、直径15センチ位もあるカブ形の大根を抜いてくれた。

かくして、何も無かった淋しい無人販売小屋に見事な大根が並んだ。「ちなみにこれを売るとしたらいくら位ですか?」と尋ねたら「3本で100円位かねえ、ハハハ」と言う返事。(何と安い事!)帰りには「よかったら持ってってくれ」と差し出され、図々しくも戴いて帰ってきた。

夏になれば夏野菜でいっぱいになる?
牛糞の堆肥も一袋百円也
自然農法の家庭菜園を望んでいる方には、とっておきの無人販売をご紹介します。

菊川町西方の山本勝巳さんのお宅で売っている牛糞の堆肥は、化学肥料と違って、すぐに効果は現れないが、堆肥が空気中の酸素を吸ってくれるため、土が肥えて有機質の土に変わっていく。長い目でみれば年々土地がやせていく化学肥料よりは絶対に良い。

但し、残念ながらいつも出ているわけではないので、通りがかった時には注意して見ていってほしい。場所はつま恋の所のトンネルを抜けて、ゆるい坂を下った辺りのお寺の前方にある。一袋100円。

山本さんのお宅では、現在約80頭の牛を飼っている。牛が尿や糞をするので下におが屑を敷いてある。そのおが屑を集めて20日間位ねかせておく。よくねかしたものほど良く、これが堆肥となる。

「できるだけ毎日出したいんですが、なにしろ大量に欲しいとダンプで持っていく人やら、茶畑に使いたいから100袋くらい欲しいという人や、堆肥組合の方にも決まった数量を出さなければならない等で、なかなか無人販売の方には出せないんです。だけど秋野菜を蒔く前の夏から秋にかけては、出来るだけ出すようにしているんですよ。」

たまに出しても「行きがけにはあったけど、帰りに寄ったらもうなかった。」なんてこともしばしばあるそうですから、買うのもなかなか大変。それだけ人気があるということになる。ここでも、やはり10人に一人はお金を入れていかない人がいるそうです。
長く続くかどうかは消費者次第
農家の主婦4人が共同で、昨年の7月から始めたのが大東町高瀬の酒屋の前の無人販売。

「他でやっているのを知って、急な思いつきで始めたんですよ。各家でいろんな野菜を作っているんだけど、自分の家で食べきれない分をみんなに利用してもらえたらと思って…。」

4軒で持ち寄るために、キュウリ、茄子、トマト、カボチャ、インゲン、柿、豆類、大根、椎茸と、季節ごとのいろいろな野菜が並ぶこともある。値付けも、自分達が主婦の立場に立って決めるので、できるだけ安くしているという。大体が市価の3分の1くらいだそうです。

ところが、価格を安くしたり、不作のために貴重になった野菜も「喜んでいくれる人がいるなら…」と出しても、ごっそり持って行かれ、せっかくの気持ちが無残にも打ち砕かれることがしばしばある。

だんだん盗まれる物が多くなってきて「やめたい」という声も出ている。
「一人、お正月飾りを上手に作る人がいて、安く出してくれてたんだけど、そういう物まで盗んでいくんだもんね。お正月飾りを盗むようになっちゃあ、良心も何もないものね。ガッカリしてしまいます。それっきり反省会も何もしていないので、今後どうするのかわからないけれど…。喜んで利用してくれる人達がいる限り、出来るだけ続けていくようにしたいとは思っていますが…。」

野菜はほっとけば出来るというものではない。何ヶ月もの間、水をやったり草を取ったり、肥料をあげたり土を耕したりと継続した大変な作業を経て、ようやく収穫が出来るのです。無人販売を長く続けられるかどうかは、利用者(消費者)次第だということを忘れないでいて欲しい。
あとがき
昨年の暮れには、どこの無人販売所にも野菜がしっかりと並んでいた。原稿の締め切りが間近に迫ったある日、ふと無人販売の野菜達を思い出し、早速出掛けて行ったまではよかったが、「ないっ!」「ないっ!」どこに行っても野菜がないのです。サンアイ堂薬店の前のみかんとキウイが並んでいるのを発見したときは、正直ホッとしました。あとは一カ所にだけレタスと大根が並んでいたのが実情で、何も置かれていない小屋をが冬の風に吹かれて淋しそうでした。取材の時期を誤ったかなと後悔しましたが、この78%がみなさんのお手元に届く頃には、また野菜も並ぶことと思います。