夏の思い出
78%KAKEGAWA Vol.42 1983年9月号掲載
熱波は掛川にもやってきた。
今年の夏は短かったけど久しぶりに暑いと感じた。ここ数年冷夏で悩まされた電気屋さんではクーラーが飛ぶように売れ、海は人の波でごった返し、かき氷もいっぱい売れ、8月の中旬を過ぎても夏物の服がよく売れたという。
しかし、どうも夏らしい夏とは言いがたい。カラッとした、あの陽気な夏の雰囲気を味わうことが出来なかった。例年だと、梅雨明け前にうるさいほど雷がゴロゴロと鳴り響くのに、今年はピカリとほんの少しだけ光った気がした。(関東ではかなり酷かったようだけど)そして、いつの間にか梅雨前線は通り過ぎて行った。
不景気で懐の中は冷たい風が吹いているはずなのに、異常気象のおかげで(?)冷たい風どころか、世界中至る処で熱波が押し寄せた。家の中にじっとしていても暑い。外を歩けばもっと暑い。連日35度を超す日が続く中で、クーラーのない車は温室どころかサウナ状態。しかしそんな暑い夏も過ぎた。でもこれから台風の季節を迎える。地震も各地で頻繁に起こっている。年々自然を破壊している人間に、まるで天地が怒っているようだ。アラスカでは氷山が猛烈な勢いで融け始めているというし、日本でも島根県では集中豪雨で大きな被害を受けた等々、世界中が天災に見舞われている。
今年の夏は終わったけど、これからも世の中は刻々と時を刻み、人々の生活は続いていく。今月の特集はそんなこととは関係無く「夏の思い出」。1983年の一度しかなかった夏を振り返ってみることにしよう。
いかにも、納涼まつり
今年の掛川納涼まつりは、8月13日(土)と14日(日)に行われ、昨年に比べてかなりの人出で賑わいました。秋の掛川大祭のお祭り並の賑わい方は少し意外でした。不景気で夏休みが長かったせいでしょうか?そして、昨年は周囲を見渡せば家族連ればかりで、他でレジャーを楽しんでいたのか若者の姿は殆ど見かけなかったのですが、ところが、今年はヤングエージの姿もチラホラ目立つのです。

各商店街沿いの露天商は子ども達の声でひときわ賑わいを見せていた。とうもろこし、いか焼きの匂いが街中に漂い出す。スピーカーからは盆踊りの「掛川小唄」が流れる。続々と押し寄せる人々…。

午後7時といえば、普段はひっそりと静まりかえっている商店街も、お祭りと納涼まつりの期間だけは大賑わい。鯉釣り、金魚すくい、花火に興じている子ども達の顔も生き生きとしている。中にはずるい子もいて、釣った鯉を入れる容器の中に水と一緒に泳いでいる鯉を入れてしまう子もいる。そんな子は、器を少し傾けて見えないように隠している(つもり)。

それにしても、連雀・中町の交差点で行われた盆踊りは年配者ばかり…。子ども達さえ踊っていなかった。各町内の婦人会の人達の集まりなんでしょうか?それとも今の子どもや若い人達は、盆踊りには関心がないのでしょうか?いやいや、これはコンテストでした。今では盆踊りまでもがコンテストになってしまうんですね…。

8月13日の一日目は、残念なことに若者が関心を示すような行事は何一つありませんでした。ゆかたを着たカップルが手をつないで歩くか、この日ばかりは遅くまで開けているお店を覗いてまわるくらいでしょうか。リーゼント風の若者達は、シャッターを降ろしたお店の前で、手持ち無沙汰に隅の方で座り込んでいた。

翌14日の日曜日は、掛川信用金庫本店の前で、アマチュアロックバンドの生演奏。商店街のスピーカーからは盆踊り用の「掛川小唄」の曲が流れている。そのそばでロックバンドがこちらも負けじとがなりたてている。歩行者天国で野外コンサートが堂々と出来るのだから、張り切るのも無理は無い。彼等の前には老若男女をとわず、黒山の人だかりだ。自分達がどこかの会場を借り切ってコンサートを開いても、これだけの聴衆を集めることは不可能だろう。普段は狭いスタジオに籠もって練習している彼等にとっては、最高の気分を味わえたに違いない。

さて、盆踊りの会場に行くと、およそ場違いな格好をしたグループが「掛川よいとこ…」という曲にあわせて盆踊りの振り付けで踊っている。俗に言うムームーという丈の長いドレスに、首にはレイを掛けている。その出で立ちだったら、できれば人工の砂浜などを作り「夏の浜辺は、淋しくて、寄せる波だけが…」のきょくをなどを流して踊ってもらえればもっとよかったのに。来年はぜひそうしてもらいたい。

夏の夜は淋しく更けていく

午後9時になると、道路や歩道にあれだけ大勢いた人の波は、いつの間にか消えて、後片付けをする商店の人達と、露天商の人達だけが、妙に淋しく目に映るのでした。そして、人々が去った後のゴミの山。一体誰が棄てていくのでしょうか…。

ある店主は「掛川は何をやるにも夜9時で打ち切り。ちょうど盛り上がってきたなあと思うと、スーッと人が消えてしまう。年に数回の行事なのに。今は子ども達も夏休みだし、親も付いているんだから、もう少し時間を延ばしてもいいんだと思うけど…」と嘆く。それにしても、見事な引け具合。
人が去った道路に車が一台。その車の横に、4〜5人の若者が所在なげに座り込んでいた。
海が夏にさよならを告げる頃
御前崎の海岸線を走っていくと、大きな真白い波が、次々とこちらに向かって押し寄せてくる。台風5号と6号が、日本列島めざしてやってきているという8月14日(日)は、普段なら海水浴客とサーファー族で賑わいを見せている時期。今日は遠くの方で心配そうに海を眺めている観光客と、地元の人がところどころにいるだけ。

台風接近なんかとても感じさせない晴れ渡った青空と、雄大で不気味な波のうねりが、アンバランスな風景を描き出している。どこからともなく、ゴーッ、ゴーッという海鳴りが聞こえてくる。
押し寄せられた波は、堤防に当たってしぶきを上げて砕け散る。テレビや新聞でみているのとは随分違う。寄せては引く波をじっと見ていると、引きずり込まれていくような恐怖感を抱く。もしも海に呑まれたら、二度と戻ってはこれないだろう。
毎年夏になると、何人かの人がこの巨大な自然に命を奪われる。それでも人々はこの海にやって来る。


年々早くなる秋の襲来

台風5号は進路を変えながら、最終的には渥美半島に上陸し、中部地方を通り抜けていった。掛川でも16日午後10時頃から雨脚が徐々に強まり、17日午前3時頃には78%掛川の事務所の横の神代地川も水位がぐっと上がった。菊川も危険水位を突破した。

この台風5号に関しては、発生した時点から大きな不安をよんだ。昨年の集中豪雨がもたらした大きな災害は、まだ人々の記憶の中にくっきりと残っているからだ。昨年被害を受けた町からは、乾燥した土煙が舞い上がり、次々と運び出された家財道具をひとつひとつ洗い流す姿があちこちで見受けられた。畳などもいつのまにか考えられないような値段にはね上がった。人々の不幸につけ込む人間の醜い部分がさらけ出された一瞬でもある。

台風5号は「四国に上陸するだろう」「伊豆に進路を変えた」などと、一日に何回も予報が変わった。「大型の雨台風」であると、しきりにニュースが流れ、もし上陸したら昨年を上回る大被害になるのではないかと皆予想した。

17日午前5時30分、下俣から逆川を覗くと、茶色く濁った水がゴーゴーと音を立て、猛烈な勢いで流れていく。あと1〜2時間大雨が降る続ければ、逆川は決壊していたかも知れない。

同じ時刻、細谷や曽我地区では、一面海のようになっていた。特にサンスイ電気の工場周辺は掛川でも土地が低い所で、すでに田圃と道との区別が付かなかった。その中に取り残されたように家がポツンポツンと見える。薄明るくなった中を消防自動車が走って行く。赤いランプが異様な雰囲気を感じさせる。

原野谷川では、本郷橋の一部が陥没した。幸か不幸か新しい橋が出来、今はほとんど利用されることのなくなった橋であった。
しかし、今回の台風は心配していた程の被害も無く、ホント良かったです。


台風が日本列島を駆け抜けると、300億トンから600億トンもの雨を降らせるのだそうです。水は大切な自然の恵みではあるけれど、必要以上に恵まれても迷惑至極。なんでもほどほどがいいのでしょうね。

今まで、日本に災害をもたらした台風は殆どが9月に上陸しているそうですが、近頃なぜか9月よりも8月に襲来する台風が目立っている。これは、年々夏が短くなってきたことを現しているのだそうです。だから、逆に9月に上陸する台風は少なくなっている傾向にあるのです。台風は秋が近づく前奏曲、秋が早まっているということなのでしょう。

台風の余波?
台風5号のとんだとばっちりを受けたのは、夏休みを利用して帰省した人や旅行を楽しんだ人達だろう。夏休みも終わりに近づき、また帰宅していく人達は、台風のおかげで、東名高速の通行止めや道路の決壊によって、至る所で渋滞。17日の午後6時頃には、菊川インターから延々と掛川の満水までぎっしりとつながっていた。ノロノロ運転どころか、ちっとも前に進んでないのだから、インターまで行くのに何時間かかるやら。掛川の街の中にも、神戸や松本、横浜などのナンバーの車がウロウロ。道が解らなくて尋ねる人、ウロウロする車、食事をする所を探し回っている人。台風の当日だというのに、車だけは賑やかだった。18日から仕事に入る人も多いだろうに、大変な事です、みなさんご苦労様。
御前崎海岸
曽我地区
原野谷川に架かる本郷橋
この向こうが山水電気のある曽我地区
細谷地区
細谷地区
1983 Summer Recollection
孝子さんの夏の思い出

「名古屋の学校に行っています」という孝子さんは、夏休み中はアルバイトしないで親のスネかじり。今年は彼氏も交えて4人で京都や大阪へ一泊旅行。「みんなで行ったのは初めての体験だから、とっても楽しかった。お金いっぱい使っちゃった。4万円以上…。」大好きな彼と一緒だったんだから楽しいはずですよね。「この日のために、せっせと夏休み前にアルバイトしてお金を貯めました。足りない分はやっぱり親に頼るしかありません。」隣は大好きな彼氏の後藤君。
松本くんの夏の思い出

「皆が(ゆきよし君、つよし君)行く行くって言うもんで台風が近づいているときに、海に入ってサーフィンやったんだけど、おぼれそうになっちゃった。だけど、あんなに大きな波って滅多にないでしょう。空は晴れ渡っているし…。気持ち良かったですよ。」
サーファーにとって台風前の大きい波は何より魅力のあるものらしいけど、やっぱり危険ですからこれからは止めてくださいね。
山崎くんの夏の思い出

山崎君はまだ学生の身分なので、夏休みを利用して原川の古墳発掘調査のアルバイト。「汗水たらしてお金を稼ぐってことは楽しいこと…。」ちなみに日当は4,500円。今年の夏は額に汗して稼いだお金で彼女とディズニーランドに日帰り旅行。とってもいい思い出になったと、穴掘りで真っ黒に日焼けした顔が思わずほころびるのでした。隣が彼女の田辺さん。
戸塚くんの夏の思い出

4日間の夏休みは海へ2日、京都へ2日行った。「実はこの夏初めてサーフィンをやったんです。御前崎海岸で。あれは動いていないと沈んじゃうんですね。だけどボードが小さくて(身体が大きいのです)動いていても沈んじゃうんです。1日やっただけだけど気持ちいいですね。」社会人一年生なので初めてボーナスを貰って大感動!「あっ、10万!あるな!って思った。実際には9.9万だけど。」カーステレオの支払いと服を買って消えた。公務員のボーナスは6月に出るので、世間が騒いでいる頃にはスッカラカ〜ンに…シラ〜ッって感じだそうです。
大杉さんの夏の思い出

大杉さんの場合、勤め先が続けて休めないので、好きなときに3日間だけ休めるシステムになっている。休み中は近くの海ばっかり行っていたというので、真っ黒に日焼けして逞しく(?)なってました。「ちょっとバカらしいけど、50ccのバイクで御前崎まで友だち二人でツーリングに行ってきました。1時間ちょっとかかったかな?初体験だったから楽しかった。」
山崎君の夏の思い出

山崎君の場合「桃と象さん遊び」。夏、サンセットジュニアというサーフィン仲間20人ぐらいで、国安海岸でバーベキューパーティをやったそうです。「一番面白かったのが、周りの強い要望で、桃と象さん遊びをやった人がいまして…。この遊びは、踊りながらお尻を出したり、前を出したりするんですよ。」お尻を出すと桃、前を出すと象さんだそうです。エゲッな〜い!山崎君は頭からビールをかけられたりしましたが、最高に楽しい一日だったようです。
鈴木君の夏の思い出

年上の女性に密かに想いを寄せていたという鈴木君。残念ながら夏になる前に片思いのまま終わってしまいました。ウ〜ン、カワイソ〜。この恋を忘れるために行ったのかどうか解りませんが、借りたジープに乗って井川(大井川の奥)に行ったそうです。ここが静岡市かと思うくらい辺鄙(へんぴ)な所ですが本当にいいところなんですね。「生まれて初めて、水らしい水を見た。」と感動に浸っていました。
杉浦さんの夏の思い出

女の子四人で旅行会社のツアーを利用して黒部に行ってきたという杉浦さん。「一日目はそごい雨と雷で、2階建てのプリンスホテルに泊まったんだけど、停電しちゃって宴会もローソクの灯の中でした。でも翌日はすっごく良い天気で、前日の暗い気分も吹っ飛びました。それにしても二階建てのプリンスホテルには参りました。」
今年の夏は、あなたにとってどのような夏でしたか。真っ赤に燃えるような、ひと夏の恋を体験した人もいるだろうし、夏休みが多くてヒマを持て余した人もいるだろうし、宿題や受験勉強でそれどころではなかった人もいるでしょう。そして、いつもと変わらぬ夏を過ごした人もいるかもしれない。どんな夏だったにせよ、夏の終わりは人の心をやるせない気持ちにするようだ。これからの憂愁の秋を迎えて、ますます落ち込まないように…。
さて、こちら編集室は、台風5号のおかげで、特集の内容もガラリと変わってしまった。熱波といい、台風といい、おかげで原稿が遅れてしまい、全く大変な夏ではあったけど、掛川の町に特別大きな被害が無くて本当に良かったと思っている。去年の秋は町全体が暗い雰囲気に包まれていたからね。今年は、ぜひとも明るい雰囲気の中でお祭りが行われることを祈っています。