ハイキング in 掛川

Vol.2 1980年5月号掲載
粟ヶ岳から南アルプス方面を望む
    粟ヶ岳
 粟ヶ岳(あわがたけ・あわんたけ)

 標高514mの粟ヶ岳は遠州一の名勝地です。日坂地区の東山のふもとから頂上までの距離はおよそ4.5km位。徒歩で一般的には約1時間位です。頂上に登ると、良く晴れ渡った日には、東に牧ノ原台地と伊豆の山々、南には太平洋の水平線を望むことができ、気分は「絶景かな、絶景かな。」。

 この日は頂上で5〜6人の男女小学生グループが木登りをして遊んでいました。木に登っている男の子にカメラを構えると、得意げにポーズをとった。下では女の子達がワイワイガヤガヤからかっている。ちょっぴり昔の自分を思い出す。ここからもう少し上の方では、どこかのグループが声を張り上げてカラオケで歌っている。私も仲間に入れてくれないかな?久しぶりに「ひばりの佐渡情話」などを披露したいものだ。でも、やっぱり遠慮しておこう。

粟ヶ岳のナゾの地獄穴

 頂上の案内標識を見ると「無間の井戸」とか「地獄穴」とか呼ばれている所があるらしい。「さっそく探検だぁ」とばかりに原始林?の中を進んでいくと、あるある「無間の井戸」の案内標示。さてさていったい何処にあるのやら。矢印の方角には一向にそれらしいものは見あたらない。あっちでもないこっちでもないと言いつつ、ついに見つけだしたときの感動!「でも?これが無間の井戸!?」縦横50cm、深さ30cm位のただの水たまりではないか。

 ここで「無間の井戸」のいわれを……その昔、粟ヶ岳にある無間の鐘をつけば金持ちになれるといわれ、遠い他国からも大勢の人たちが訪ねてきて鐘をついた。これを見た山頂の観音寺の住職が「あさましい人間どもよ。未来未世を考えないとは何事ぞ。よし、人々の目をさましてやるため、この鐘を地の底へ埋めてしまえ。」と、寺の古井戸に投げ込んで井戸を埋めた場所が「無間の井戸」というわけです。

 小ささにちょっとガッカリして「無間の井戸」を後にし、次は「地獄穴」の探索。30分ほどあちこち探したのだが、ついに見つからず地獄穴はナゾのまま。

楽しそうに木登りする小学生
案内看板
これが無間の井戸
    大尾山
気持ちが落ち着く山道

大尾山(おびさん)


 原谷中学校の前の道を真っ直ぐに行くと足立酒店があり、そこの角を左に折れてそこから大尾山まで約12km。市街からだと約32kmある。

 大尾山の駐車場から頂上の顕光寺まで徒歩で約8分と書いてある。参道はひっそりとしていて、時々木漏れ日がさしたりしていて、ちょっぴりロマンチックな気分。途中一組の家族連れとすれちがっただけで、他にはひとっこひとり居ない。その家族連れは子ども達だけがはしゃいでいて、親は疲れ切った表情で下りてきた。なんだかいやな予感。案の定、2〜3分も登ると息がゼイゼイ。休み休行ったら8分が20分もかかってしまった。

 顕光寺の庭には。生椎茸が干してあった。「お醤油をつけて焼いて食べたらさぞうまかろうに…」う〜ん、何だか急にお腹が空いてきた…。他に何かめずらしいものは…?ありました!「海棠(かいどう)」と言うバラ科の落葉樹。春になると淡い紅色の花が一面に咲きほこって見事な眺めだそうです。今はまだ蕾で残念無念。咲いた頃にもう一度きてみたいな…。

 ところで、顕光寺のお手洗いは昔懐かしいくみ取り式。二本橋ではなかったけれど、戸が腰の高さまでしかない。なんだか外から見られそうで恥ずかしかったけれど、ちょっぴりスリルなどを味わったりして。

大尾山の県天然記念物の鳥居杉

 本堂はここから少し上にある。息を切らしながら本堂の前に来た。見上げると高さ30mはあろうかと思われる杉の木が本堂の両側に立ちはだかっている。この杉は鳥居杉という名称で静岡県の天然記念物に指定されているという。幹の周りはおよそ7m。澄み切った空に雄大な巨木杉。「お見事!」としか言いようがない。近くの見晴台に行く。上がってみれば何もなし。あったのは観光客が忘れて?いったゴミの山。情けないですね。自分で持ってきたゴミは持ち帰ってほしいものです。

 帰り道、参道を歩きながら周りを眺めると、遠くの山々がとても美しい。今まで山はあまり好きだとは思わなかったけれど、今日、大尾山に登ってみてまだ自然は失われていないという事実に大きな感動を覚えました。余りにも大きな感動に自分自身驚いている。こんなところで余生を送れたら最高だろう。

 もう陽が沈むのも間近…。大尾山から夕陽を眺められたらきっとすばらしいと思う。そして、一人でも多くの人に大尾山や、身近な自然の美しさを再認識してほしいと思った一日でした。

おいしそうなどんこ椎茸
左の建物がスリルある厠
見上げる大木の鳥居杉
    横地城跡
東城頂上の横地城本丸跡 二の丸頂上の横地太郎神社
菊川町の横地城跡

 900年の昔から、横地太郎家滅亡までの450年間、遠江きっての古名族として東海に君臨したといわれる横地城跡を訪ねてみました。八幡太郎義家の庶子がこの地に住みついて、以来一四代続いた横地城は、広い敷地を持ち、当時の勢力のすごさを物語っている。
 
 横地城跡の駐車場から降りるとすぐ右側に上池、左側に牛池があり、池の端には休憩所も設置されている。小高い山に登っていくと、所々に天然木で作られたベンチがあり、自然公園の感じかただよう。二の丸の頂上には、横地氏を祀ってある社があり、この裏手からは今でも落城当時の焼米が出土するらしく、当時の戦禍を偲ばせている。現在は横地太郎神社が建っている。裏手に回り焼米を探してみたけれどついに見つからなかった。

 二の丸の頂上から下に降りていくと「月の池」という小さな池があるが、これは池というよりは、掘りといったほうがあてはまるのかな。誰かが「これは昔の厠ではないか?」と申した人がおりました。月の池という名から判断すると、殿様がちょっと一杯ひっかけながら池の面に映しだされた月を眺め、ひとり悦にいっていたのではないかと想像されます。(あくまで私の想像で菊川町の観光パンフレットには記載されていません。)昔の人は風流だな〜。それを「厠」などと言ったのは誰だ!

 そんなことはさておき、二の丸の南側にはかなり広い公園の千畳敷があり、周りは可愛らしい花々が植えてあり目を楽しませてくれます。また、東城(本丸)跡には頂上に枝振りのみごとな松が一本ある。ここから見渡す景色も最高だ。他にも中城、木戸跡、横地太郎の墓、千人塚などがあり、当時の歴史を見ながら自然と接することができる。
これが月の池
    桜木池
水が抜かれた桜木池 池の中央の水のない広場!?
桜木池

 桜木線の坂下バス停で下車。(ここのバスは一日に11本しかないのでバスで行った場合よ〜く調べておかないと帰ってこれません)

 お菓子屋さんの横の山道を歩くこと約30分、途中やまばとやキジの鳴く声がする。やっと桜木池についてみると、ヤヤ!池に水がない!これは一体どうしたことだ。掛川市のパンフレットには、水はあくまで澄みきって、山あいの自然美に調和するなどと書いてあったけれど…。それを期待して訪れたひとはガッカリするだろうなぁ。

 池の中央まで道があり小さな島がある。そこまで行こうと道を降りていくとここでまたガッカリ。誰が捨てたかゴミの山。道の両側にはどこかの食料品店のレシートの束や食料品のゴミが木に引っかかり、まるでゴミ処理場の体。

 再び池のまわりの山道を歩いて橋を渡り島に着く。小さな休憩所があって一休み。ここから少し下がっていくと、栗の木が10本位ある。その下にはカラカラになつた栗の実がいっぱい落ちていた。誰も拾いにこないのかな。それなら秋には必ず拾いに来ようと心に決めて、水のない池に降りていった。池の底には小さな川が流れているだけで、ちょっとした運動場といったところ。近所の人の話では、夏になると、この池で泳ぐ人もいるとか。はやく、この山あいの自然美と桜木池とを調和させるようにしてほしいものです。

歴史を感じる坂下のバス停
桜木池竣功記念碑
    小夜の中山
これが「夜泣き石」
「扇屋」 こちらが「子孕み石」

小夜の中山(さよのなかやま)


 小夜の中山を語らずして、東海道を語れない。と言われる?ほど有名になり、ここの史跡や伝説の本まで出版されている。ハイキング地としてもまた有名な所だ。
 小夜の中山公園に行ってみると、木で作られたベンチが公園の傾斜にそって並んでいる。遠望もすばらしく、晴れた日には富士山も見ることが出来るそうです。すぐ下の庭園を「扇屋」のおばあさんが手入れをしていました。

 公園から少し歩くと久延寺。この寺は毎年10月の上旬に観月会なる行事を行うことでも知られています。が、どうしたことか、ここにも夜泣き石があります。小泉屋さんのところにあるのも夜泣き石。夜泣き石が二つも有る?これは不思議です。

 実は、久延寺にあるのは、夜泣き石に似た寺の古くからの庭石で、小泉屋さんのところにあるのが本物の夜泣き石。そしてもう一つおもしろいことに、この夜泣き石は、明治12年に牛車に運ばれ舟に載せられ東京の浅草観音まで行ったり、昭和11年には東京銀座の松坂屋に展示されたこともあったそうです。やっと理解!今まで銀座松坂屋の奉納碑が夜泣き石のところにあるのは何故だろうと思っていました。だいぶ話がそれましたが、春うららの中山峠。ブラブラ歩く休日にこの二つの夜泣き石を見てみては?(久延寺の石は子孕み石というそうです。)

あとがき


 私たちの住んでいる周りにもこんな素晴らしい場所があるのに、なぜかその場所を知らない人が多く遠くの有名な観光地ばかりに足を向けてしまいがち…。有名な観光地もいいけれど、もっと身近な所にも他の観光地にも負けない、それ以上に素晴らしい所がある事を知ってほしくてこの特集をしました。グループ、家族連れで、お茶とお弁当を持って出かけませんか。夏は涼を求めてのんびりしましょう。(文:やなせかずこ)