二俣線各駅停車 in 掛川

Vol.1 1980年4月号掲載
掛川市内にある駅
掛川
西掛川
遠江桜木
細谷
原谷
ローカル線廃止問題が全国各地で話題に取り上げられている昨今、掛川タウン誌78%KAKEGAWAではこの創刊号で、「二俣線」を特集し、少しでも多くの人々に利用してもらえる事を願い、私達なりに特集を組んでみました。
参考までに掛川市誌より、二俣線の開通に至るまでの歴史から

明治の中頃、民間による掛川〜二俣間の鉄道敷設計画も、当時の中心的人物、山崎千三郎の死去によって実現に至らず、昭和10年4月17日、ようやく住民の願いが叶い、掛川〜森間が開通し、桜木駅、原谷駅が開設された。
その後昭和15年5月、掛川〜豊橋間全線が開通し、昭和29年10月10日に無人西掛川駅が、さらに昭和31年5月10日には無人細谷駅が誕生した。以来、人馬、大八車、荷車等に替わる、住民の足として広く人々に利用されるようになった。
   遠江桜木駅
掛川駅はさておき市内では昇降客が一番多いという遠江桜木駅のドキュメント。

 約2時間に1本という貴重な電車はちょうど出発したばかり。駅の構内にはひとっこひとり居ない。丈夫な木で作られたベンチには誰が作ったのか、可愛らしいパッチワークの座布団が並べられている。もうだいぶ暖かくなったけれど真冬の寒い時、電車を待つ間、冷たいベンチに直に座るより、この手作りの座布団がどれだけ多くの人々に暖かさを感じさせてくれたか計りしれない。作ってくれた人の心の優しさ、そしてこの駅のあたたかさが感じられる。

 時計の針は、只今12時を指しています。駅員さんは食事時でしょうか?今まで駅員室の中に居たのに、いつの間にか姿を消していました。
「こんにちは!」と呼ぶこと、二度三度。ようやく奥の方から出てきました。「すみません。写真を撮りたいのですが…ホームに入ってもいいでしょうか?」「はい、いいですよ。どうぞ、どうぞ。」理由も聞かず、あまりにスムーズに入れてくれたので、ちょっぴりうれしくなってしまいました。この辺がローカル線の国鉄らしからぬところ?

遠江桜木駅
   原谷駅
原谷駅
 さて、次の駅を探しながら車を走らせていると、細い路地を曲がった所に、なんとなく駅らしき建物が見える。ここが原谷駅。駅の前の広場には、自転車が2、30台と、なぜか子ども用三輪車が1台が、乱雑に置かれていました。駅まで来るのに三輪車とは、よほど近所の子どもかな?撮影のためホームに出たかったので、駅員室の方に声を大に張りあげること数分……。誰も出てこなかったため、無断で駅のホームに入ってしまいました。
   細谷駅
細谷駅
 掛川市内にもう一箇所駅が有るはずと、車を北の方向にばく進して行ったが、着いたところは隣の森町の戸綿駅……。道路よりかなり高い場所にあり、森町がよく見えました。ついでに付け加えておくならここの駅は無人駅ですから堂々とホームに出られます。

 さて、これからがたいへんなのです。もう一箇所の駅探し。戸綿駅で駅名を調べると、遠江桜木と原谷の中間に細谷という名の駅がありました。なぜか、二俣線にかかわる案内標識が一つも無いのが不思議です。有るのは「ローカル線廃止反対」のビラのみ。途中から線路伝いに走っていくと、遠方にかすかに駅らしき建物が見えた。まさしく細谷駅。周りには新しい住宅が建ち並んでいるというのに、なんとも不釣り合いな無人駅だ。都会に出て遠く離れていった人々に、そこだけはむかしと変わらぬ故郷を思い出させてくれる唯一の場所なのだろうか。
   西掛川駅
西掛川駅
 郷愁の気分を味わった後は、掛川駅から一つ目の駅である西掛川。やはりここも無人駅。同じ無人駅でも先の細谷駅とは大分違った雰囲気がある。特徴はといえば、ホームに昇り降りする階段と、多くのいたずら書き。その特徴有る階段は、斜めの階段が登り方向左に低く傾いている。身体の右半分だけが先に進んでいく感じかな?なんとも説明のしようがないので、興味有る方は、一度試してみてください。
   掛川駅

いよいよ二俣線に乗り込んでの旅の始まり。(旅といえるのかな?)


 掛川駅にて電車の出るのを待つこと45分。午後2時19分掛川駅発新所原行き。思ったより利用客は多い。しかし、大半は学生が占めている。一駅ごとに乗客が減り、原谷駅を出発するときはわずかに6〜7人の乗客が残っているだけ。そして、無人駅のホームに電車が滑り込む度に、車掌さんが走っていってはホームの出入り口で切符を受け取っている。そんな光景だけでも。二俣線のあたたかさが伝わってくる。
 掛川から豊橋間の見所と言えば、奧浜名湖の周辺くらいでしょうか。たまたまこの日は雨がポツポツ。夕日が湖面に映った風景などを想像すると…今回は見ることができなくて残念でした。全般的に車窓から見る周辺の景色は東海道線となんら変わりはないけれど、二俣線がもつのどかさや、ローカル線のゆったりとした気分を十分味わうことができる。たまには、一日ゆっくりと二俣線の旅などいかがでしょうか。(文:やなせかずこ)