日本刺繍 加藤花子
Vol.5 1980.8月号掲載
 十六才の時から始めて四十六年間、刺しゅう一筋(?)に生きてきた、市内板沢の加藤花子さんのおはなし。

 四十六年前、東京に出て「日本刺繍研究所」で五年勉強。そのうちの二年間は先生の助手を努め、以後十年間位、母親の看病のためブランクがあったものの、刺しゅうに関してはベテラン中のベテラン。

 和裁、洋裁、お茶、お花の先生は結構いるけど、刺しゅうの先生となるとこのあたりではめずらしい。現在は呉服店二階で毎週木曜日に刺しゅう教室を開催して教えている。

 刺しゅうの用途は広く、訪問着、帯、草履、バックをはじめ、壁掛け、色紙、衝立、屏風、果ては祭りの屋台の天幕にまで刺しゅうしてしまう。中央町、家代、袋井市深見の屋台の天幕は加藤さんの作品。機械で刺しゅうしたものとちがって一針一針、針を刺して仕上げたものには心があり、なんともいえない深い味わいがあって、それは見事なものです。

 小さな針の一針一針が、花や鳥、風景など四季の美しさを縫い表し、日本刺繍の伝統的な図柄を形作っていく。「根をつめてやると肩がこるので、最近はのんびりやっています。やっぱり年かしらねぇ。」とおっしゃる加藤さんですが、好きな仕事を持っているせいかとても若々しい。やはり人間には何かひとつ打ち込めるものがほしいなぁと、つくづく感じた一日でした。