石積み名人 杉森嘉作
VOL.12 1981.3月号掲載 
 六十年以上も石積みをやってきたという杉森さんは現在八十三才。とてもその年令には見えない。今でも時々石積みの仕事をされているが、いまだ四十キロ位の石なら上げてしまうというバイタリティあふれるおじいちゃんです。若いときは百キロ以上もあるような石も平気で持ち上げていたそうで、たいへんな力持ちです。

 石積みというのは、玉石や割石を積み上げて石垣を作っていく、大変な労力を必要とする仕事です。杉森さんは掛川城の天守閣や市役所前の石積みも手がけ、宮内庁の仕事も二回行いました。今では石積みの仕事は少なくなってきて、職人も少なくなってきているので杉森さんは貴重な存在です。

 島田市の生まれで、五十年ぐらい前に、掛川にある「松が岡」の仕事を請け負ったのがきっかけで、掛川に居ついてしまったと笑いながら話す杉森さんですが、その顔の奧には苦労してようやくここまできたという安堵感があるように見えました。

 「昔は使用人のためにタンスや服を売り払ったりして、生活は使用人よりも苦しかったです。お正月に金谷の知人から、どうしても掛川に行って欲しいと頼まれて、布団をしょって『あんまり、けっこな格好をしていっちゃだめだで…』と言われ、わざわざぼろ半天を着て険しい山道を越えてきました。松ヶ岡の仕事の後、この近辺の林道の石積みをだいぶやりました。それから森林組合のひとが離してくれなくて、とうとうここに居ついてしまいました。居尻も今ではずいぶん良くなってきましたが、私が来た当時はみんな仕事が無くて、ほとんどの人が林道の工夫として働いていました。たまに、私が近所の嫁さん連中におやつだと言って、お菓子を出してやると、『初めて食べる。』と言うひとが大勢いたですよ。みんな苦しい生活でした。」

 最近でも、やはり石積みの仕事で横浜まで出掛けていくそうです。これからも元気でいてください。