掛川丁葛 児玉光二さん
Vol.10 1981.1月号掲載
 千葉にある、大手スーパーの社長が医者からも見放された病気にかかり「葛の根」がいいと聞いて、わざわざ千葉から番頭二人が夜中の二時頃掛川まで取りに来たという葛の根。この葛の根には純度百パーセントの澱粉が含まれていて、古くから漢方薬などとして親しまれている。(腸の弱い人や、かぜをひいたときにはとても良いそうです。)

 この葛の根からとれた澱粉を固めたのが「丁葛」。市内の倉真地区の「丁葛保存会」で三年前から生産化されるようになり、掛川の名産品として売りに出されるようになりました。丁葛は正月から三月半ば頃までの寒い時期にのみ生産されます。

 自生している葛の根を集めて、手作業で作っているのですが、集めてきた葛のすべてに澱粉があるわけではないらしい。特に台風のあった年には澱粉はほとんど含まれておらず、静かで穏やかな年でないと澱粉はとれないという。

そんなお天気屋の葛が相手なので、その苦労はたいへんなもの。寒風が吹くなか、山に登って掘ってきた葛の根を、杵でついて、大きな桶の中で水洗いする。澱粉が溶けだしたその水を袋で漉して一昼夜おいて澱粉を沈殿させる。次の日、もう一度きれいに洗い、また三日ほどそのままにしておいたものを型の中に流し込んで乾燥させて出来上がる。

 大きさが五センチ角、厚さ二センチ位の丁葛は、一個が五百円。一個で葛湯なら五〜六杯分あり、山の素朴な土産物としての人気もある。現在は観光用の土産物として、倉真温泉や夜泣き石でおなじみの日坂の泉屋で販売されている。

ところで、この丁葛を作っている倉真の区長である児玉さんの奥さんは、倉真に嫁いできて三十年。「こんな田舎でも住めば都。いい所がいっぱいありますよ。」と言う。最近その感想を詞にしてレコードを出した。息子さんの友人が作曲し、息子さんが唱う「ふるさと音頭」。のんびりと、時には厳しくもある静かな山村にもこんな優雅な生活もあるのですね。