腹話術の昔ばなし
Vol.12 1981年3月号掲載
今月号から、掛川在住のお年寄りに昔ばなしを聞かせていただくコーナーを「歴史探訪」に設けました。掛川の町の本物の歴史をお伝えします。

今月は腹話術で大活躍された、中央町の浦上喜平さん(78歳)に思い出話を語っていただきました。

 昔は今みたいにいろんな物がなかったので腹話術はとっても人気があったんですよ。実際、ここらで腹話術の人形を作っている所がなくて、昭和23、4年頃に東京にある協会に頼んで、当時1万円位で作ってもらいました。その人形の名前は「ポンちゃん」って言うんですがね。腹話術のはしりの頃は、人形が口を開けたり表情を入れて話すもんだから、みんなびっくりしちゃって「人形がしゃべってる。なんで人形がしゃべるんだ!?」ってよく聞かれました。「これは人形がしゃべってるんじゃなくて、おじさんが声を出してしゃべっているんだよ。」って、いくら説明してもわかってもらえなかった。

 えらい人の前でもずい分やったけど、みんなからよく聞かれたよ。電気仕掛けで人形がしゃべっているんじゃないかとか音を出す機械が入ってるんじゃないかとか、後ろに誰かいるんじゃないかとかね。他にあんまり楽しみがなかったんで、もういろんな所から頼まれてあっちこっちに行きましたよ。だから掛川で30才以上の人だったらほとんどの人が私を知っていると思うよ。

 当時、腹話術で道徳とか意見したりすると、それがとってもききめがあったんですよ。たとえば婦人会の会長が「意地の悪い人がいて、会の運営がとってもやりにくいから、腹話術で人形を通して言ってほしい」と頼まれる。それが、きき目あるんですよねえ。ちょっと実演してみますけど…。以下は浦は浦上さん、ポは人形の「ポン」ちゃんの略です。
浦「あのね、ここのね、婦人会の中に………」
ポ「うん、わかってるよ、わかってるよ。」
浦「わかっているわけないじゃないか。まだ何も言ってないのに。」
ポ「わかってるよ。」
浦「ここの婦人会の中のことをどうしてわかってるの?」
ポ「あの…あの…いじわるな人がいるんだろう?!」
浦「そうか、いじわるな人がいるのか?」
ポ「いるよ。」
浦「ポンちゃん、その人知ってるの?」
ポ「うん、知ってるよ。」
浦「そういう人、どこにいるの?」
ポ「あそこにいるよ。」
浦「そんなことじゃあここの婦人会はうまくいっていないなあ…。」
と言うようなことを煎じ詰めていくととっても効き目がある。人形の言うことだからおこるにおこれないし…。そんな訳でよく青少年の非行や道徳のことを人形を通じて話をしてきました。商売なんかそっちのけであっちこっち駆けずり回ったもんです。

 最近では、あっちこっちで皆さんが(腹話術を)やっていますね。おまわりさんや婦人警官の人もやっいているようですけど、私に言わせると、ヘタ、ヘタ。腹話術の人形はうまくやるとみんなダマされるんだけど、これをヘタにやるとすぐにボロが出てしまうんです。

 本人の声は口を開けてしゃべるんだけど、お人形の時は絶対口を開けてはだめ。お腹から声を出すようにするんです。私も最近は総入れ歯になっちゃったもんですからずっとやってません。うまくいかないんですよ総入れ歯じゃあ。途中でポロッと入れ歯がはずれちゃったりして……。声もうまく出ないんでね。