昔の川と、いまの川
Vol.63 1985.6月号掲載 
 この写真(戸塚廉氏所蔵)は、大正10年頃の魚釣り風景である。場所は、今の掛川市と袋井市の境にある、同心橋付近の原の谷川である。当時の写真を見ると、河川敷も広々としていて周りに木々も有り、本当に自然の中流域の川そのものという印象を受ける。
 近頃の川は、(特に街中を流れる川など)何か人工的に作られてしまったような感じで、気軽に川原に降りていく気にもならない。少し昔までは子どもでも川原に降りて遊び、時には川の中で泳いだり、釣り糸を垂れたものだが、最近では、川で遊ぶ子どもの姿は殆ど見かけなくなってしまった。
 川で泳ぐのは危険も伴うが、それだけに楽しいものであった。水の流れるままに身をまかせ、時には流れに逆らって泳いだりと、夏の来るのが待ち遠しかったものである。それがいつの間にか「危険だから」という理由で、ほとんどの川や池で泳ぐことは禁止され、自然との接触がますます薄れ、淋しい限りである。もっとも、近頃のこんな汚れた川ではとても泳ぐ気にはならないが…。
 さて、写真の釣り人が腰にぶら下げているのは、魚籠(びく)という、釣った魚を入れる竹篭である。今では魚籠に替わってクーラーボックスなるものが出てきたが、魚籠の中で釣った魚が跳ねている感触もまた格別な味わいがある。立って釣り糸を垂れているが、鮎とかハヤの類を釣っているのだろうか?(もう一枚の写真のように投網で捕れば一度に沢山取れるのだが。)何時掛かるかもしれない魚との駆け引きは魚釣りの醍醐味というものである。
 それにしても、少し昔までは大雨の降った後に仕掛けをしておくと、ウナギが一杯捕れた。カニも捕れた。しかし、今では工場から出る廃液や家庭で使う洗剤や、農薬などの様々な要素によって川は汚染され、魚が住みにくい川と化してしまった。