いつまでも残して欲しい「掛川座」
Vol.51 1984.6月号掲載 
 この写真は昭和28年当時の掛川座である。現在も、内部の畳敷きの2階がなくなったくらいで、外観はそのままの姿で残っている。
 当時は掛川座の他に中央劇場(連雀)、栄劇場(肴町)などもあって、上映する映画にもよるが、映画館は大いに賑わった。特に写真の看板に描かれている、佐田啓二と岸惠子共演によるメロドラマ「君の名は」は、掛川でも大流行。
 昭和27年4月から2年間、NHKラジオで毎週木曜日午後8時半から9時まで放送されたが、ラジオの放送が始まると女湯(当時は銭湯に行く人が多かった)が空になると言われたくらいで、その人気が窺われる。「忘却とは忘れ去ることなり 忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」この言葉はいまだに耳にする。
 当時は他に主な娯楽もなかったので、若いカップルのデートは、もっぱら劇場を利用するのが常だった。入場料はだいたい米一升に匹敵し、農家の人達は、米一升を持って家を出た。その米を農家でない家に持っていって売り、その代金で映画を観る人が多かったようだ。