その65 地域の素材を授業に
きまた たつしろう
 あとちょっとで夏休み。授業がなくなるので、ずいぶんと気が楽になるが、小学六年生はなかなか忙しい。市内小学校ソフトボール大会があるので、毎日の練習がある。朝早く、ラジオ体操のめんどうをみてやる必要もある。八月中旬をめざして、市内小学校水泳大会のための練習もある。毎日の通学区ごとのプール開放に合わせて、地区の子どもたちを学校のプールにつれてこなければならない。勉強も山もりあるわけではないが、練習帳や夏の研究も少しずつ進めていかなければならない。子どもも先生も一息つくのは八月の中旬すぎてである。

 さて、今年のぼくの学校の、先生方の研究のめあては、「地域素材を授業にとり入れてみる」ということである。毎週水曜日は、授業を五時間目で終わって、「研修日」と呼んで、先生方みんなが集まって勉強会みたいなことをやる。これは市内の学校どこでもいっしょである。テーマはちがっても県下の学校はいっしょのことだと思う。

 ぼくの、今勤めている学校の学区は、歴史的にみても地誌的にみても興味深いことが多い。川にはたなごがいっぱい泳いでいたり、もじすりがたくさん咲いたり、円墳や横穴墳が多かったり、川の土手からは須恵器や土師器のかけらが顔をのぞかせていたりする。

 地名にも興味深い名が多い。天井川もたくさんある。造り酒屋、あられ屋、こんにゃく屋などの伝統的な商業も発達している。さらには、東名高速道路と新幹線、国道一号線とそのバイパスが学校の窓からすぐそこに見える。やかましいこともやかましいが。

 かたつむりの勉強を一年生がやるといえば、時期ならいっぱい手にはいるし、女子プロやチェッカーズやこっくりさんにうつつをぬかしている女の子や、ファミコンに奮闘している男の子たちでも、大雨でふなやなまずが大量にどぶ川に遡上したと聞けば、すぐにでもとんで見に行くことができるのである。

 そんなわけで、先生たちはなんとかして子どもたちを燃え上がらせたくて、「地域のこと」を授業や活動に取りこんでいきたいと思っている。その取り組みが「研修日」にあてられる。先生先生で、自分の得意なことや、勉強したい面でがんばっている。

 きのうは、三年生が、朝から半日かけて、前の日に摘んできたお茶の葉をつかって、お好み焼きのホットプレートを使ってお茶作りをやっていた。この地域いったいは、緑茶の畑がたくさんあってそれこそお茶の葉あつめには苦労しない「地域素材」である。

 お茶の農家と関係ないズブのシロウトの先生が、参考書を片手に「ほいろ」もなんにもなくて、お茶づくりを子どもたちと大さわぎでやっていた。売っているお茶とくらべるのもおかしいが、見るも無惨なお茶ができた。子どもも先生もほんとうに楽しそうだった。

 六年生や五年生は、昼休みを利用して、川の土手に土器のかけらを探しに出かけているときに、ときには石器もでることがある。そんななかで「文化財」、「考古学」、「歴史」、「民族史」、「地誌」などということばを自然に覚えていく。

 あれでもかこれでもかと先生方は考えうごきまわり、なんとかして子どもたちに生き生きしてもらいたいと思っている。

自分で自分の生き方をみつけてほしいと思う。