その56 お菓子と事件と子どもたち
きまた たつしろう
 学校のある地区には、何軒かの菓子を置いてある店があるが、子どもたちの話しだと、「森永は売っているよ」とのことである。ぼくの住んでいる団地の小さな駄菓子屋さんのおばさんは、「こんな店に毒の入った菓子を置きにくるわけはないので、警察の人も来たけど、心配していませんよ。」とのことである。

 きのう、陸上大会に参加する六年生の練習につきあって、男の子たちと無駄話をした。

「予告なしに置いとけば、誰かが死んでおもしろかったに」
「ぼくは、菓子がきらいだで、関係ないもん」
「大人の食べものにいれれば、おもしろいに」
「そうそう、タバコに入れとけば、きまた先生はうんと困るで、いいに」
などなどと、おしゃべりはなかなか止まらなかった。

 毎日のように、新聞やテレビでとりあげられている「グリコ森永事件」。マスコミの発達で、日本中が同時にパッとまきこまれる。「気になるので、森永は買わない」、「家の人がいけないというので買わない」というタイプの子どもたちは、きっと、夕飯の時などに話題になったり、お母さんから言いわたされたのだろう。

「大丈夫だよ。田舎にまで犯人はこないから」、「そんなことは、ぼくらんとこ関係ないもん」と、製造会社名なんか気にしないで目についたもの気に入ったものを買ってムシャクシャやっている子。

「この前のお菓子を買ってきて、お父さんに聞いたら、『これはカスガイだよ』と言ったのでほっとしたや」と言う子。
多くの子どもはお菓子が好きなのだ。

 ぼくの学校の運動場は、土曜日をはさむと、月曜の朝に、お菓子などのカンブクロがいっぱい落ちている。校長先生が、それを見てブリブリするが、なかなかなおらない。きのうの朝、そのカンブクロを拾い集めてみた。二十くらいはあったが、その中には「森永」はなかった。してみると、子どもたちはきっと話題になっている「グリコ、森永事件」をぼくたちの想像以上に気にしているのかも知れない。

 夕方帰りがけに見せてもらった六年生の子どもたちが書いた学級だよりには、「この頃、きょうしつやろうかで、毒入りきけんと紙に書いて、人の背中にセロテープではりつけて、よろこんでいる男の人がいるのでやめて下さい」とあった。

 そして、「あっ、森永が来た」と言って、自分のきらいな子が近づいてくると、大声で逃げてまわり、よろこんでいる子がいることも聞いた。

 三、四年生にもなれば、新聞やテレビのニュースくらいは関心を持ってほしいと思う。新聞のテレビ欄とマンガだけをのぞくだけ(もっとも、これ位だけでもかなりすすんでいる!)ということから早く抜け出してほしいと思う。しかし、こんなゆがんだ形での世相の反映はまっぴらごめんである。

 今回、学校のいろんな子どもに、「犯人に対する感想」を聞いてみたが、ほとんど感想らしきものを持っていなかった。犯人に憎しみを持っていないのである。
いやはや…。