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子どもたちは、あとすこしで卒業。進度のおくれている教科をいそがなければならない。そんな中、授業で太平洋戦争を勉強していて「じゅうごの母」という言葉を出したら、とみこちゃんが「いやだ、エッチ」と大声で叫んだ。それに連れて、他の女の子たちも「きゃあっ。」と大騒ぎし出した。ぼくは、目を白黒して女の子たちに聞いてみた。「先生。十五でお母さんになるなんて早すぎる!」と言う。
ああそうなんだ、やれやれと思いながら、黒板に「十五」と「銃後」を書いてくどくどと説明をした。そんなことが多く、時間ばかりが過ぎて行く。あれもこれも早くしなければと、あせる。教えること、子どもたちにおぼえてほしいこと…教科書はうんざりするぐらい残っている。じっくりと教えていきたいが、やらないところを残したままでこの子たちを中学校に送り出すわけにはいかない。
矛盾を抱えたまま、明日には「中学校の入学説明会」があるのだ。そこで、ぼくは子どもたちに聞いてみた。
「中学進学をひかえての今の気持ちを一言であらわすとどういう気持ちなのか。」
「楽しみ」なのが八人
「不安」が十三人
「こわい」が三人
「行きたくない」「こわくていきたくない」「半信半疑」が一人ずつ。
四、五年前の六年生とずいぶん変わってきたなとおもう。そのころの子は「楽しみ」と「不安」が半々だった。楽しみは、部活と、英語と新しい友だちだった。不安は、他の学校の子といっしょになること、勉強についていけるか、勉強がむずかしくなるのではないか、などということであった。
ある子は、「なんかすごくこわいんです。中学校はリンチだの、校内暴力だの…。小学校と中学校は一才の差しかないのに、どうしてこんなにも違うのかな。校則がすごくきびしいし、なんだか中学生になるのがつらいです。」という。男の子の半分と女の子の全部は、不安と怖さいっぱいで、中学生への進学をまっている。しかも、勉強におくれるとこまるとか、友だちができないとこまるとかなどの、なまやさしい理由からではない。
「リンチ」、「先輩のリンチ」、「せんぱいのいじめ」、
「お金をとられる」、「上級生のおどし」、
「悪いなかまにいじめられないか」、「上級生からの見られ方」、
「先輩」、「なぐる先生がいる」…。
こんな不安が心の中をかけめぐっているのだ。
給食を食べながら、休み時間にいっしょに遊びながら、ばくは子どもたちと中学のことで話しをしてみた。
「○○さんは、お年玉を一万円。かりられちゃっただに。担任の先生も知らないんだって。」とか、
「中学校の中のあの道を一人で歩いているとあぶないだに。」
「みんな二百円もってこいっていわれて困っていたら、三年生が助けてくれただに。」などという、知ったかぶりのような話しがいっぱいでてくる。部活の希望も、「あの部はよせ、リンチが多いんだぞ。」などということで、決められていく。
もちろん、どこでだれに聞いてきたのかはわからないがある程度は事実なのだろう。この子どもたちがそう思いこんでいるだけのぶぶんも少なからずあると思う。先生たちにちゃんと聞けば、きっと、「尾ひれ」がついて伝わってきているということがわかるにちがいない。
しかし、子どもたちは、そんな「尾ひれ」つきの話しで、中学校を見てしまっている。
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