その35 お年玉と子どもの荒れ
きまた たつしろう
 正月休みを終えた子どもたちが教室に帰ってきた。教室に、あの子ども独特のにおいがしてとても気持ちがよい。時にどなったりしてしまう子どもたちのそれぞれ勝手のむだ話が、教室全体に、わあんとうなりをあげているのも、久しぶりのことで気持ちがよい。教師は身勝手なものである。

 久しぶりにあった友だちとの会話は「お年玉」「ET(映画の話)」「紅白歌合戦とレコード大賞」の四つである。まちがっても、「きまた先生、元気に職員室に来ているかねぇ。」というような話はでてこない。

 ぼくの教室の子どもたちのもらったお年玉は、三十人の子どもたちで六十万円くらいであった。無駄な計算だが、この学校全部の子どもたち二百人で、三百万円くらいになる。子どもの第一の話題の材料になるわけである。全国の子どもたちのもらったお年玉は、四五〇〇億円はくだってはいまい。しかし、この不況の世の中、去年より少なかったとなげいている子がぼくの組の五分の一、据え置きの子が組の中の半分くらいである。そして、まだほとんどがお母さんの引き出しの中にねむっているという。十二月、正月休み前に、世の中の不景気、人勧凍結、お米の不作、農作物のお茶の伸び悩みなどの話をして、子どもたちの受け持ちとして、今度のお年玉景気は「くもりか雨」と御託宣をくだしておいたので、今年のお年玉についてはすこしは納得しているようだ。

 その上、この頃、田舎の地域でも、中学生どころか、小学生までが「かりられる」という被害が多く出てきている。このことは由々しいことである。

 いわゆるカツアゲ。これは恐喝で犯罪である。学校で、町のすみの方で、近所の暗がりで、知り合いや顔見知りの関係なく「かりられてしまう」のである。多くの場合、親は知らないのである。小笠・掛川の学校は確実に荒れてきている。

 今月の十日から、岩手県の盛岡で、日教組の全国教育研究集会が開かれる。ぼくも参加する。それで、お正月に送られてきた各県のレポートを必死になって読んだ。おどろくべきことに、ある県では小学生の中にたばこやシンナーを吸っている子が出ているのだという。子どもたちが帰ったあとの学校の便所に、たばこの吸い殻が毎日毎日たくさん見つかるのだという。

 奈良県のいなかのある小学校のアンケートにはこういう結果がでていた。

六年生だけを書き抜いてみる。

●たばこを吸ったことがあるか。
 男子 三二%  女子 五%
●バイクの運転のしかたを知っているか。
 男子 六五% 女子 二五%
●流行の服や靴を身につけたいか。
 男子 三一% 女子 四六%
●髪の毛をのばす、染める、パーマをかけるなどしてみたいか。
 男子 二三% 女子 七五%
●すぐカッとなって腹がたつ方か。
 男子 五三% 女子 五七%

他県のこととはいえ、ほんとうにかなしい思いである。
これが現実なのだ。果たしてみなさんはどう思いだろうか。