その34 ごはんに牛乳
きまた たつしろう
 あすから師走。今年の最後の月がはじまる。教室の中には、ノートを持って住所を聞いてまわっている子もいる。師走は子どもも走る…年賀状の準備である。運動場では、体育館の工事が始まっていて、機械や車などでいつもの運動場が半分になってしまい、少し広っぽい道路みたいになっている。子どもたちは、文句もいわずに遊んでいるが、職員室の先生たちは、屋外での体育の授業や、教室にまでひびいてくる工事の騒音などのことで少し頭を痛めている。

 さて、きょうは月末ということで、給食のメニューはちょっとばかり豪華だった。おしるこが出たのである。きょうの献立をみて昨日から楽しみにしている子もいた。おしるこは、ほとんどの子が好きである。でも、数人の子は大きらいだという。その中の一人のしまこちゃんの食べ方はおもしろかった。大きらいだから、“当然のこと”として一番はじめにおしるこを顔をゆがめて食べだした。

 「そんなにきらいなら、残すか誰かにあげるかしなさいよ」と言ったが、しまこちゃんはおしるこをふくんだまま、しきりに首をふるしぐさでいやだといっている。そして、しばらくしかめっつらをしながら、無理矢理飲み出した。なかなか、のどを通らないようだ。大丈夫かと思いながら、笑いながら見ていたら、おしるこを口いっぱいにしているのに、牛乳を飲み出した。ぼくはびっくりした。牛乳で流し込んだのである。水とかお茶ならわかるが、牛乳とは驚いた。

 そういえば、我家の息子は、ごはんにバターをたっぷりつけて食べる。ぼくは見ていて気持ちが悪くなる。おいしいのだそうだ。教室で子どもたちに聞いてみたら、バターのほかにも、ごはんに牛乳をかけて食べる子もいた。これにもおどろいた。

 数年前にごはん給食が始まった頃、ぼくは、牛乳とごはんを一緒にすることに大反対した。「日本の未来の日本人を育てる学校で、ごはんを食べながら牛乳を飲むというくせをつけさせるべきではない」と大上段にかまえて言い張った。その結果、牛乳は二時間目のあとの休み時間に飲むことになった。

 次の年に給食についてのアンケートをとった。学校の中のほとんどの子は、「牛乳とごはん」のとりあわせに、なんの不思議さも感じていないという結果だった。極端にいえば、学校の中で牛乳とごはんを一緒に食べられないのはぼく一人だけだったのである。

 それから何年かたったこの頃、ぼくは、給食がごはんの日には牛乳は飲まないが、ごはんを一口食べては牛乳をがぶりと飲む子どもたちを見ても、なんとも思わなくなった。

 先割れスプーンや犬食いのことも職員のあいだで問題になったが、食器やメニューを根本的に考えなおしていかないとだめである。ぼくの学校でも、ごはんの時は、はしをすすめているが、スプーンで食べる子は多い。今の食器の形だと、はしの方がたべにくいし、かえって犬食いになる。かといって、食器をごはん茶碗にかえてもらうとこんどは、二人だけしかいない給食婦さんの労働時間とかかわってくる。

 ぼくは子どもたちの教育の方を優先したいのだが、なかなか上手く行かない。最初の、しまこちゃんの食べる順序のことを当然のことと書いて“”を付けたが、それには訳がある。

 「わたしは、きらいなものが出たときに、家では後にするけど学校では先に食べるよ」という三年生の女の子の話を聞いた。

 調べてみると、こういう子は多いのである。家では、きらいなものは、すこしぐずれば食べなくて済んでしまうけど学校ではそうはいかないという。まさにその通りで、子どもの知恵にはびっくりしてしまった。