その18 学校での宿泊訓練
きまた たつしろう
 いまぼくがいるこの学校では「宿泊訓練」というのを、ずっと続けている。どういうわけか、林間学校とか臨海学校とかいうような、夏休みにはどこの学校でもやっているような行事はやらないで、五、六年生を夏休みのある日に学校へ集めて、運動場へかまどを掘って、飯ごうでご飯を作らせて、教室へ寝るという、ごく簡単な行事をずっと続けている。市内の小学校の中には、この時期には二泊三日で、青少年の家などに出かける学校もある。そういう情報はいろいろなところから入るのでぼくの学校の子どもたちの中には、夏休みに学校に泊まるだけではつまらないのでもっと校外に出て大きな行事にしたらどうかという意見を出す子もいる。しかし、先生たちは、いろいろと悩んだあとでいつものような学校での宿泊りで、「宿泊訓練」ということになる。ことしも、やはり悩んだあげくそうしたのである。

 ここでは小学生の多くは地域の子ども会に入っている。その子ども会でさえ、団体バスを貸りての豪華な林間学校をやる所もある。しかし、そんなに豪華にしなくても、そんなに遠くに出かけなくてもここの学校のように、まだ、田んぼや緑に囲まれている所なら「林間学校で体験させたい原点」はすべて気軽に体験させることができるのではないだろうか。ぼくはそう思う。

 このように、今年もおこなった宿泊訓練で、多いに話題になったことは「夕食」である。いままで卒業していった子どもたちは、この定例の宿泊訓練で飯ごうで飯を炊いて、カレーを作って、ジュースやくだものを食べてということだった。夕食のカレーが「カレー粉から作った」ものから「インスタントカレー」に変わるとか、ジュースが、ぼくら大人の知らないようなハイカラな名前の飲み物に変わるとかいうような「進歩?」はあったが、いつの時も、それはそれで、けっこうみんなの多くが楽しみ、よろこび、おおさわぎし、「ああ、うまかった。」「ああ、はらいっぱいたべた」ということになっていた。

 ところが、今年の子どもたちの計画した献立の一覧表を六年生の先生から見せてもらって、びっくりしてしまった。子どもたちが考えたメニューは「バーベキュー」「焼き肉」「おむすび」「サンドイッチ」「おそうめん」だったのである。ごはんにカレーをぶっかけて、腹一杯食べて…などという雰囲気はなくなってしまい、ある先生にいわせれば、「野営料理と野外料理を間違えている」ということである。確かにそうだ。雨が降らない乾燥した夏の運動場。風の強いこの地域では埃がまい、火をつけ、さらに煙りと灰のまいあがる中、かまどの上に鉄板や網をおき肉やピーマンやらなまのイモを切ってならべ、焼き肉のタレで食べようというのである。芝生のお庭で、お父さんやお母さんが作ってくれる風景と混同して、イメージだけが先行している。

 こうありたいのだろうか。きっと、現実に起こることは、その風景とはまちがっているにちがいない。しかも、大人がいない経験の少ない子どもたちだけの手でおこなう。それも人数が多い。班でも十人位がひとかたまりになる。ほとんど経験の無い子どもたちが十人で、十人分をいっしょに食べるため一度につくるということになる。これは、どうみてもうまくいくとは考えにくい。さんざんな目にあって、腹を空かせて、時間が経って寝る時間が迫ってくる。ということになるにちがいない。だが、これもいい経験である。

 ところが、当日は、午前中が大雨、土砂降りである。運動場は、水浸し。しかたなく、校内で行うことになった。火を使える所は、家庭室や理科室。かまどでわいわいがやがやのバーベキューは出来ないので、学校内で火をつかうため、女の先生たちが中心となって、てんてこまいしながら「野外料理」をつくり、それを子どもたちは美味しく食べて、一件落着とあいなった。

 子どもたちは、運が良いのか悪いのか。でも、失敗してもよいから子どもたちの計画した「野外料理」を自ら作ってたべるという体験はさせてあげたい。