非行、万引き、罪悪感
Vol.63 1985.6月号掲載 
非行その環境と風潮

高橋◆先月の雑談会では、子どもが非行とか悪さをするとかは家庭環境が悪いことが多いという意見や、中には子どもがしっかりしている例が有って非行に走らないなど、親に対する意見などがいろいろ出たけど、今日来ている人たちはどのような意見を持っている?
東A◆私の友達の例なんだけど、中学一年生の時にお母さんが亡くなって、部活がソフトだったんだけど、毎日朝は、炊事や洗濯を全部やってから学校に来るので、朝の部活はこれないと言うんだけど、上級生達はそのことを理解できなくて、全員でその子のことを嫌っちゃつて、本人もすごく暗くなっちゃって、それで非行にパーッと走っちゃった。
高橋◆かわいそうだね。
東A◆それに加えて、新しいお母さんが来たんだけど、そのお母さんは自分の子どもだけを可愛がって、その子には小遣いもナシとか、ご飯とかも差別されて、そういうことも非行を重ねる原因になっていると思う。
高橋◆ひどい例だな。俺だってそういう状況なら非行に走るかもしれないな。中一くらいなら。
東A◆わたしも。
東B◆本当に気の弱い子なら、自分のカラにとじこもっちゃうんじゃないのかなぁ。
高橋◆そうなるだろうな。今のいじめっていうのは酷いらしいじゃん。いわゆる正義派みたいな子どもが、いじめられている子どもをかばうと、今度はかばった本人がいじめのターゲットになっちゃって、いじめられてた子がいじめる側になるらしくて、子ども達もかばうのが恐くていじめが増長する。
東B◆食生活とか親のスキンシップみたいなものも大きな原因になっていると思う。親がかまってくれないっていうのが一番つらい。小学生の万引き心理も、者が欲しくてやるんじゃなくて親にかまってもらいたいから事件を起こすみたいな事が多い。また、そのスリルを味わいたくて万引きを重ねるみたい。
高橋◆高校生や中学生の万引きと、その親の注意を惹きたいという小学生の心理はどこか共通しているのかな?
市K◆高校生くらいだと、こうやったら親が困るだろうと思いながら万引きをする子が多いみたい。
東B◆私の先輩から聞いたんだけど、万引きをやらなければ高校生じゃないって、中学生のときに聞いた。
東A◆私は、中学生の時に、8人ぐらいのグループがあって、みんな万引きやっていて、私だけやらないので、やらないの?って逆に聞かれた。その時には、学校中で数百名の生徒が万引きしていた。だから、中額1年も3年も、万引きしないのはおかしいという感じで競ってやっていた。
高橋◆それが、かっこいいという感覚だったのかな?
東A◆それもあったみたい。そういう子も居て、その子は小学生に切りつけた。行為自体がかっこいいという感じでいたみたい。
東B◆万引きでもなんでも、やること自体が友達の中でひとつの勲章みたいになっている。また友達も評価の対象としてその行為を見ている気がする。
高橋◆ここに来ている人は、物質的な欲っていうものがある?欲しいから万引きしてやろうとかいう感覚の中でだけど。
東A◆私は、キーボード。キーボードなら万引きしてもいいなぁっていう感覚がある。
高橋◆それは趣味的なもんじゃん。本葉の意味では無くてもいいものだね。実際本当に困っていて、それがなければどうしょうもないという物は少ないよね。多くの例が、もうちょっとカッコつけたいとか、文化的な生活をしてみたいだとか、精神的に恵まれたいとかの程度でさ、そんな感じで万引きをやっている。今の大人たちは、敗戦後物質的豊かさを目標にしてきてその結果、殆どの部分で満たされてきたと思う。だけども何かが欠けている。
東B◆世の中見渡すと、他の人を見るとき、表面的なもので見た目で判断している。物持ちだとか何とか言って、それに目を向けるから内面まで見る能力が欠けていると思う。
東A◆私は人間を自由にするものが欠けていると思う。規則が多いのも人間性を無視するものだと思う。
東B◆私は、規則はあんまり関係ないと思うんだけど、生活するにも、規則があるからやりにくいという部分はあんまりない。
東A◆そうかなぁ。たとえば規則が細かいというか、生活面にまで入ってくるようなのは困りものだと思うよ。
高橋◆たとえばどんな事?
東A◆私の中学の時、今もそうだと思うんだけど、髪の毛の長さとか、映画もダメ、コンサートもダメ、夜何時以降は外出してはいけないだとか、私なんかは、わりと素直に従っていたんだけど、不満や反抗したくなるときもあった。がっこうでもわざと規則違反の服装でいったりして…。

非行と万引き、罪悪感

高橋◆たとえば、中学生が万引きしたりすると、一つに原因を決めつけられない部分があると感じるんだけど、この子の意志が弱かったとか、親が悪かったんだとか決めつけられない。
市K◆簡単に心理学的に割り切れば、その子の自我が未発達だったとも言えるしね。
東B◆万引きするっていうのは、他から見てもわからないところで行われるし、そのことを他の人に言わなければわからないことだから、あえて他人に言いふらしているということは、その子に罪悪感がないからだと思うんだけど。
高橋◆俺は、罪悪感はあると思う。巣縷々ヶあるということは悪いことをやると感じているんだから、もし罪悪感が無ければスリルも生じないと思う。
東B◆う〜ん。でもやっぱり罪悪感はないと思う。
市K◆俺も、罪悪感という点では、いじめの問題につながると思うけどな。その意識が無いから万引きも、いじめも出来る。
東B◆そう、いじめっていうのも罪悪感がないから、いじめることができるじゃん。
市K◆ゲームとしてね。
東B◆そう、いじめて楽しむ。どこかに罪悪感みたいなものが少しでもあったら、絶対に出来ることでは無いと思う。
高橋◆最近もよく聞くけど、万引きなんかも、クラスのワルがやるんじゃなくって、普通の子とかクラス全員とかが刺激を求めてやるとかが増えているけど、その点はどう考える?
東B◆そういうのは、みんながやっていて、一緒にやってみないかって誘われる場合が多いと思う。
東A◆やらないときらわれたり、仲間はずれにされるじゃんね。
高橋◆そういう環境だから全校で何百人という数になったんだね。ところでその学校はどこ?
東A◆東中です。
高橋◆先生はそのことを知っていたの?
東A◆最終的にはわかったみたいだけど、学校の名前は出したくなかった。
高橋◆でもいいんじゃないかな。事実だったんだから。先生もそういう生徒の実態をもっと知るべきだと思う。
東B◆何で先生が知らなくちゃいけないの?
高橋◆例えば、先生がうちの学校はいい生徒ばかりで万引きも無いし、と思っていたところで、万引き事件が2、3件起こったとするよ。そこでいざふたを開けたら何百人も万引きをやっていた。それが事実だったら、当然先生も知るべきだよ。
東B◆よくわかんないけど、なぜ先生はいい生徒ばかりの学校にしたいの?
高橋◆世間の見る目が違うじゃん。あそこの中学校は非行も無くていいがっこうですねとか言われたいんじゃないの。
東B◆それじゃ、何故先生は世間の目を気にするの?
高橋◆先生にしてみれば、いい生徒が沢山いれば、その人の手腕というか評価が高くなるじゃん。あの先生は教育する力が高いって評価されるから。
東B◆教育ってナニ?

教育がわからない

高橋◆高校の教育は、あんたちは実際に教育されているんだけど、俺は、生徒のいいところを先生が発見してくれてさ、例えば道の能力。社会に出て何に適しているんだろう?と俺なんかも考えたけど若いからわからない。そういうのを、年長者で経験豊かな人なら判る部分が多いでしょ。そういうのを見つけ出してくれて、多くの面でその人間を成長させてくれるのが教育だと思っている。テストの点を取らせることだけじゃ無くて。
東A◆点数だけの先生がほとんどだけどなぁ。
東B◆人間的な部分が欠けている、殆どの先生に言える。
高橋◆学校の先生は何を教えるかって言うと、実際は、いい点がとれるように教えるわけでしょ。英語や算数やってそれがあんたの個人にとってどういう意味を持つかということは話してくれないんじゃない?!
東B◆そう。何で私が勉強しなくてはいけないのかがわからないで勉強しているじゃん。それだから意欲喪失みたいなところがある。
高橋◆それじゃぁ、あんたは何で勉強しているの?
東B◆考えているんだけど、その答えが出ないだよ。
東A◆数学の先生は、受験のためだっていう。
市K◆それは、非常に明快な割り切り方だな。
東A◆今やっている数学は、絶対に受験に必要だからやるしかない!という言い方で。

受験のための勉強(教育?)

東B◆今日面接があって、私は数学が得意なもんで、情報処理の方へ進みたいって希望を出して行ったら、いきなり英語出来るかと聞かれた。できませんって言って、そしたら国語出来るかって聞かれた。どうしててすかって聞いたら、専門学校行くよりも短大に行った方がいいから、そのためには、国語とか英語も必要になるから、って言われた。好きでも無い学科をやるんなら…受験って何のためなんだろうってまた考えちゃった。
高橋◆実際に教科しか教えない先生が多いよ。
東B◆もっと人間的なことを私は教えて欲しい。
高橋◆何で勉強するかって悩んだやつが先生になれば、先生になったときに、そういう悩みを持った生徒が居たときに、やっぱり悩みを真剣に聞いてあげるだろうし、良い助言が出来ると思う。だけど悩んだことの無い先生は生徒の気持ちはわからないと思う。
東A◆そういう先生って、できない人を蹴散らかすというか、おいてきぼりにする。
東B◆出来る人を中心にしてどんどん進んじゃう。
東A◆塾があるなら学校なんていらないじゃんね。
高橋◆学校で教えるよりも効率的に受験や試験に即応した実践的なものを鍛えるためにあるじゃん、塾ってさ。
東B◆そういう子ってさ、学校の授業をおろそかにしている。自分は塾で習ったからイイって感じでさ。
高橋◆今じゃ小学生が英語塾とかに行っているけどあれも考えものだと思う。
市K◆親にしてみれば中学校に行って苦労しないってのもあるし、良い中学や高校に入れるためにやっているけど…。
高橋◆塾に入れる親なんかは、考えが浅はかだと思うよ。入れることで安心しているわけじゃん。ということは自分で子どもをどういうふうに育てたら良いかがわからなくなって、自信が無いと思う。親自身に考えが無い。金で子どもの人生を育てている。自分の力ではなくてさ。(笑)
東B◆そういう親だけにはなりたくない。
高橋◆俺は別に勉強が出来ることは悪くはないと思う。いろんな知識を得ることはいいことだと思う。ただ狂っているのは、それが何の目的の為かっていうことだよな。今の社会全体が、大人の社会全体の価値が金でまわっているじゃん。物質的な豊かさとか、それを得るためにお金欲しいし。いいところに就職するんだからさ。それが一番の軸なんだよな。特に資本主義の日本なんかは。そうすると、それ以外の価値、たとえば、人間の精神的豊かさとか心の問題とか、俺はこのことが一番大切な事だと思っているけど、それが今の日本では、どこか行っちゃっていると思う。大人の頭の中からね。だから大人だって子どもを判断するとき、学歴以外のことでは判断できないし、こういうことは、大人自体が狂っていると思う。