日本刺繍           末吉節子さん 掛川市下垂木字海老田2002-12
Vol.75 1986.6号掲載 
一本の絹糸から伝統の味わいが広がる…
今も昔も高価な日本刺繍


刺繍を大雑把に分けると、東洋風のものと西洋風なものがあり、東西ともにかなり古くから伝わっているようである。日本刺繍の現存する最古のものとしては、飛鳥時代(592年〜710年)のものが残っているという。

昔から美しく飾ったものを身につけたいという女性の心理は変わらぬようで、身分の高い女性や裕福な家の女性は、好んで和服や帯に刺繍を施したという。これは何処の国も同じらしい。

私たちが一般的にやっているフランス刺繍は木綿糸を使っているが、日本刺繍の場合は絹糸を使うので、光沢があり、仕上がりは気品にあふれた豪華さがある。一本の絹糸は12本位の細い糸でできており、そのまま使うこともあれば、何本ずつかを手で撚り合わせたりして、好みの太さの糸を作ることが出来る。色も数え切れない程あって、糸だけで図柄に合わせた細かい表現も可能である。それだけに、日本刺繍は特殊な技術を要する。


京都で本格的に修行


掛川市内で日本刺繍を本格的にやっている人は、多分そんなに多くないはずである。根を詰めておこなう仕事だけに、趣味の範囲でやるにはいいが、それを仕事にするとなると、よほど好きで無いと続かない。そんな中で、末吉さんは、本場京都で修行してたきた掛川では数少ない一人である。現在は仕事で着物や帯に刺繍をしたり、自宅で刺繍教室を開いて教えている。6年前に京都に移り住んだ時、ご主人の勧めで刺繍教室に通ったのがきっかけで、その後、京都で刺繍専門にやっているところに弟子入りという形で、本格的に刺繍を始めた。

京都にはまだまだ日本刺繍専門の業者が何軒もあって、京都だから成り立つ商売とも言える。OLを経験してきた末吉さんは「普通の仕事だと何も生み出せるものがないけど、こういった仕事は創作するという大きな魅力がありますね。京都では80才を過ぎても現役でやっている方もいます。日本刺繍は習うより慣れろですね。」と言う。理論より実践というところだろうか。


顔の表情がうまく出せれば一人前


日本刺繍はひとつの作品を仕上げるのに、何日もかかる。図柄によって異なるが、3日位から1ヶ月以上もかかるものもある。図案も一つひとつ異なるし、出来上がる度に完成の喜びを味わえるという。

末吉さんは、どちらかというと人形とか人を表したものが好きだと言う。顔のあるものは表情があるから難しい。これが出来るようになれば一人前ということだろうか。最近はそういったものを自由にこなせる様になり、昨年の7月に西町にある「並木画廊」で個展を開いた。額に入れたものと、着物を展示したが、日本刺繍は珍しいので、大勢の人が見に来てくれて、即売をしたらほとんど売り切れてしまったそうである。また個展をやりたいそうだが、ある程度の作品がないと出来ない。一点仕上げるのに何日もかかるし、仕事をやりながらだから作品まで作るのはなかなか思うように行かない。

日本の伝統工芸でもある日本刺繍。掛川の地で根を張りつつある。