第18回創展で最高賞受賞 菊川町の横山良美さん
Vol.61 1985.4号掲載 
「台北のもうひとつの顔」油彩360号
文部大臣奨励賞を受賞した喜びの横山さん


横山さんは今年の第18回創展で「台北のもうひとつの顔」(今月号の表紙の絵)が、文部大臣奨励賞という最高賞を受賞した。360号という大作である。3月1日に菊川の大頭龍で行なわれた受賞パーティは、会場が祝福のためにやってきた人々で埋め尽くされていた。今回のこの作品は、行き詰まって苦しみ抜いた末に無我夢中で描き上げたものだけに、当人の喜びも一入。

横山さんは現在菊川町加茂に在住しているが、元々は掛川市神代地の出身。サラリーマン生活の側ら絵を描き続け、独学で今回の栄誉を掌中におさめた。誰にも師事することなく全くの独学である。

以前お聞きした話だが、横山さんは自分の似顔絵を千枚描いてみようと決心し、実際にそれを実行したそうです。一日一枚、千日(三年間)一日も休まずに、来る日も来る日も自分の顔だけを描く。人それぞれにいろいろな表情があるように、一人の人間の中にもいろいろな表情がある。鏡の中には毎日違う顔が写る。穏やかな顔の日もあれば、苦悶の顔、険しい顔、楽しそうな顔と、あらゆる顔と対面するわけである。それをキャンバスにぶつけるわけだが、何百枚と描いていく内に鏡に写った顔が何かを語りかけてくるようになると言う。絵を描く練習というよりは自分との闘いである。その執念が今回の受賞に繋がったのだろう。

横山さんの絵は実際のままの形を写し取るのではなく、形(題材)を借りて自分の内面を表すやり方である。自分でこういう物語を作りたいなと思えば、そういう題材を探し出してきてそれに表すのである。「人間も美人は必要ない。いい人がほしいのと同じ様に、絵もきれいな絵は必要ない。いい絵がほしい。いい絵というのはその人だけにしか描けないものだ」との言葉通り、横山さんの絵は決してきれいではない。人間の内側に潜んでいる、ドロドロとした泥くささが表現されている。

横山さんは「人間はまず自由でありたい」を信条としている。近々パリで必ず個展を開いてみせるとも語る。今まで以上に人の心を打つ作品を描き続けていってもらいたいものである。現在は、菊川町の青少年ホームと、自宅では子ども達に絵を教えている。
   (文:やなせかずこ)
受賞作品の前で喜びの表情を見せる横山良美さん(左)大頭龍での受賞パーティ会場にて