風の旅団
Vol.39 1983.6号掲載 
元、曲馬館(3年程前に解散)のメンバー4人が集まって、昨年の7月に「風の旅団」を結成。2月頃までは6名だった団員が、公演体制に入った途端に12名にふくれあがった。女性4名、男性8名のメンバーで、各地にテントを張りながら、日本全国を回る。2ヶ月程の公演中の寝食もすべてテントの中での共同生活。年2回の公演巡業を予定しているが、今回の掛川での公演は、風の旅団としては旗揚げ公演になるために、特に印象深いものとなったようである。芝居の題名は「東京マルトゥギ・魔弾の射手」5月7日と8日の2回公演/於:掛川市の龍華院境内/主催:蒼生舍・レターハウス   

                         (文:やなせかずこ)
解散した曲馬館の熱狂的なファンは全国に居るという。
曲馬館が解散するときにガッカリして「自分の青春は終わってしまったような気がする」と言っていた人が大勢いた。その話を聞いたメンバーは「こりゃあ、またやらにやぁいかん、という気がして、それに支えられてまた始めちゃった。」と笑う。

今のメンバーは、いろいろなところから、いろんな人が集まってきた。大学を卒業して、北海道からリュックサックを背負ってやってきた22才の男性。当然、見て感動を受けてやってきたわけではなく、することがなくて、何をしようか迷ってた時に、風の旅団の噂を耳にしてやってきたと言う。

曲馬館の大ファンだった女性もいる。浜松でお店を開いていた夫婦は、浜松での公演の打ち合わせをしていた時に、話をしている内にだんだんやる気がでてきて、ついに店を閉めて風の旅団に入ってしまった。

来年から61才の老人(?)も入ってくる予定。この人は、曲馬館の時にも公演中についてきた人で、8月15日の敗戦の記念日に会社を辞めて、正式に入ってくるのだそうだ。

トビの専門職の人もいる。(テント設営には大活躍する。)公演で2ヶ月くらい行っていると、いつの間にか倍以上の人数になっているとのこと。

テント公演を初めて見る人には、今まで自分の生活の中での異体験から、もっと奥深く知りたいと思う人と、自分とは関わりのない世界と感じて、自分から切り離してしまう人の二通りがある。

「東京にいて、仕事しないでブラブラしている時でも、夢の中で脅迫観念に押され続ける。旅して、芝居をやってると、夢の中でも解放される。完全に自由ですよ。」と、あるメンバーは言う。

風の旅団の場合、役者のイメージに合わせて台本が作られていくから、役者は別に素人でも関係ないという。確かに、見ていて感じたことは、役者がピッタリとその役に当てはまっているのである。主導権が脚本家ではなく、役者にあるところが興味深くもあり面白い。

芝居も生活もすべてテントの中。雨の日も風の日も、2ヶ月程の公演中は、畳の上での生活は望めない。知らない者には、一見、見すぼらしい生活に見えるが、彼等にとっては、何ものにも縛れることなく、おもいっきり自由を楽しめる最高の生活なのである。



公演が始まる2日前に、お酒と手作りのお寿司の差し入れを持って、龍華院の境内に張ってあるテントを尋ねてみた。彼等は食事をしていくらも時間が経っていないのに、みるみるお寿司が無くなっていく「こんなに恵まれた晩なんてないから、さっきあせっちゃって食べちゃった。明日も頼みます。」だって。12人分も毎日作れるわけ無いよね。
「東京マルトゥギ・魔弾の射手」
序 章◆騒乱のエクササイズ
第一章◆鉄の街にて
第二章◆のぞかれた魂
第三章◆ネオ・リアリズムの宿
第四章◆踊るマルトゥギ
第五章◆燃えあがる氷点
第六章◆恐怖のゆりかご
終 章◆水を渡る葬列

《あらすじ》演出:桜井大造

「備えあれば憂いなし」日暮れはユーコクと共にやってくる、というわけで〈鉄の街〉では夜ともなれば、夜の防災訓練が開始される。この夜陰に乗じた防災訓練は、どこか、何かが秘められた不健全なエネルギーを感じさせる。だから、これを〈騒乱のエクササイズ〉と名付けよう。ここ〈鉄の街〉はすでに久しく音信を絶っていた大坂の鉄喰い男(女)達、すなわち日本にも棲息していたアパッチ族の末裔達のスミカである。

近頃、バタバタと潰れていく鉄工所も、かつて朝鮮戦争様万歳の折は、親子爆弾を作り、高成長娯楽が全てよ期には、遊園地のメリーゴーランドという具合に全盛を誇ったが、いま工場の内をのぞけば、チェーンブロックや、電動クレーンが錆びついた嘲笑を、そんな歴史に送っている。だから、鉄喰い達の末裔は、大地震の予兆を、風にベトンに、鉄骨に教えられた明日の廃墟を荒らしまくる〈明日のアパッチ族〉なのである。彼等はいまのところ何者でもない。ただ、〈過去の記憶〉から風が吹いてくる時には水を渡る〈現在の現在〉がやってくる。風と水に感心した者達はいつのまにか〈明日のための前夜〉に佇んでいる破目になるかもしれない。

風に置かれた〈少年〉が吹き溜まりのトロバに立っている。この少年には記憶が無い。いや、〈過去〉そのものがないのかもしれない。「自分は、自分ではなく、アイツはアイツではない。」こんな少年期の妄想に、身の上話を押しつけるオッサンもまた必ずいる。〈少年〉が鉄喰い男となって握るものは。鉄ではなくて、白骨と髪の毛。それを耳に押し当てれば聞こえてくるさ、60年間イヤされることなかった“恨”が!骨と髪は、水を渡ってくる多勢の広大(芸人)とともに、死の舞を踊るはずだ。

そんな最中、〈少年〉もまた、〈もう一人の自分〉…入管に追われ重体のまま失踪した韓国クラブの出稼ぎキーセン〈ミス・ノウ〉…へと転生する。だが、自分の過去を明日を探し当てた者には、血生臭い白い手と、そそり立つ黒い壁がいつも彼を待っている。
白い虐殺を乗せた黒い葬列が水を渡る。けれども“さよなら”をいうには、まだ早い。