「東京マルトゥギ・魔弾の射手」
序 章◆騒乱のエクササイズ
第一章◆鉄の街にて
第二章◆のぞかれた魂
第三章◆ネオ・リアリズムの宿
第四章◆踊るマルトゥギ
第五章◆燃えあがる氷点
第六章◆恐怖のゆりかご
終 章◆水を渡る葬列
《あらすじ》演出:桜井大造
「備えあれば憂いなし」日暮れはユーコクと共にやってくる、というわけで〈鉄の街〉では夜ともなれば、夜の防災訓練が開始される。この夜陰に乗じた防災訓練は、どこか、何かが秘められた不健全なエネルギーを感じさせる。だから、これを〈騒乱のエクササイズ〉と名付けよう。ここ〈鉄の街〉はすでに久しく音信を絶っていた大坂の鉄喰い男(女)達、すなわち日本にも棲息していたアパッチ族の末裔達のスミカである。
近頃、バタバタと潰れていく鉄工所も、かつて朝鮮戦争様万歳の折は、親子爆弾を作り、高成長娯楽が全てよ期には、遊園地のメリーゴーランドという具合に全盛を誇ったが、いま工場の内をのぞけば、チェーンブロックや、電動クレーンが錆びついた嘲笑を、そんな歴史に送っている。だから、鉄喰い達の末裔は、大地震の予兆を、風にベトンに、鉄骨に教えられた明日の廃墟を荒らしまくる〈明日のアパッチ族〉なのである。彼等はいまのところ何者でもない。ただ、〈過去の記憶〉から風が吹いてくる時には水を渡る〈現在の現在〉がやってくる。風と水に感心した者達はいつのまにか〈明日のための前夜〉に佇んでいる破目になるかもしれない。
風に置かれた〈少年〉が吹き溜まりのトロバに立っている。この少年には記憶が無い。いや、〈過去〉そのものがないのかもしれない。「自分は、自分ではなく、アイツはアイツではない。」こんな少年期の妄想に、身の上話を押しつけるオッサンもまた必ずいる。〈少年〉が鉄喰い男となって握るものは。鉄ではなくて、白骨と髪の毛。それを耳に押し当てれば聞こえてくるさ、60年間イヤされることなかった“恨”が!骨と髪は、水を渡ってくる多勢の広大(芸人)とともに、死の舞を踊るはずだ。
そんな最中、〈少年〉もまた、〈もう一人の自分〉…入管に追われ重体のまま失踪した韓国クラブの出稼ぎキーセン〈ミス・ノウ〉…へと転生する。だが、自分の過去を明日を探し当てた者には、血生臭い白い手と、そそり立つ黒い壁がいつも彼を待っている。
白い虐殺を乗せた黒い葬列が水を渡る。けれども“さよなら”をいうには、まだ早い。
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