春よこい
Vol.13 1981.4号掲載月
森本四郎
 今年は寒さが一段と厳しかった。それなりに春が待ちどおしい!たらの芽、ふき、ゼンマイ、ワラビ、セリ、タケノコ、「堀たてのタケノコを食べると土のにおいがする」といった偉人もいる。味にうるさい魯山人が「美食原品として一等」とたいこ判を押すだけあって、土のにおいのするタケノコの味はまた格別だ。料理を思い浮かべるとよだれがでそう…。

 私が掛川に住みついて十二年になる。あんたどこからきたの?どこからきたの?そんな質問に、静岡からきました!何百回となく答えた。よそ者という言葉も同時に知った。封建的な町だな、排他的な町だなと思いつつも愛着を感じてしまい住ついてしまった今、すばらしい友人達に囲まれて幸福です。

 掛川に新幹線の駅を!東名のインター!病院を!すばらしいよだれの出そうな構想がめじろ押しの昨今、掛川にも春がきたような気がする。長い間、静岡、浜松の中間に位置し冷や飯をくらった感もある。この大事な時、市民は仲間意識を捨て、目的意識を持って取り組むべきだと思う。あいつなら俺が話をつけてやる。俺が電話をすればタクシーなんかすぐ来る。年上の方にター坊、キー坊と見境なく物を言う。ガキの付き合いがそのまま大人の付き合いになっている。仲間意識が強い。良い面も多い。しかし、悪い面も多いと思う。現実をじっくり見つめて、お山の大将になるな。しかし、何かをやろうと思った時、烏合の衆にならずに覚悟を決めて自分自身判断して責任を持ってやりとげる、そんなお山の大将ならすばらしい。

 一本のタケノコが竹林を形成し、味覚、美感を満足させつつ、地下では鉄筋のごとく根を張るそんなすばらしい掛川にすずめの歌を楽しそうに口ずさみながら、お宿を探すよそ者のすずめが集まる。そんな掛川の春、早くこい。