自覚
Vol.12 1981.3月号掲載
松井道夫
 覚悟とは何か。私のような若輩者が、えらそうな事を言って、……と思われるかもしれませんが、まあ、聞いて下さい。
 どうも、近頃、自分のことは棚に上げて、他人ばかり責めたがる風潮がある。
 道で転べば、道路管理者の責任。学校で先生の注意も聞かずに、生徒が机の上からとびおりた時にケガをしたなら学校側の責任。と、なんでもかんでも他人に責任や損害賠償をおしつける。

 些か旧聞になりますが、「マルチ商法」の騒動のときも然り。欲の皮をつっぱらかして、一儲けしようとして、あてがはずれてしまうと、即、「被害者の会」結成。
 私達は、昔から、うまい話には裏がある、といわれてきた。そして、その忠告を無視して、損をしたから返せ、なんて、盗人たけだけしいとでも言おうか。この「マルチ商法」でも、まかり間違えば自分が加害者となり、子会員や孫会員に損させることになっていたかも知れないのに…。
 テレビのニュースで、被害者の会が「金を返せ」とばかりに、マルチ商法の本部へ押しかける場面を見て、なんともやりきれない思いがしたものである。
 自分は「金の亡者」であると世間に宣伝しているようなものなのに…。

 何かやろうとするときに「成功したら」「失敗したら」と考えて、そこで自分自身で判断をくだす。「やる!」「やめる!!」その時に全てを己の責任の内に、という覚悟が大事なことだと思う。
 現在、そのような「覚悟」をしっかりと持っている人がどれだけいるのだろう。
 駄目な時には、親がなんとかしてきれる、という甘ったれと、「覚悟」をさせない、子供に甘い親達。どちらも似たりよったり、なのだろうか?