「畜産科」養豚
Vol.44 1983年11月号掲載
6ヶ月で肉豚として売られていく。

豚はイノシシ科に属し、本来は鼻面が長く身体も細い。黒茶色の毛が密生していて耳も小さいが、家畜として飼育されるようになってから改良され、現在のような豚が出来上がった。豚は一回の出産で6頭から多いときには22頭も生まれる。(普通は10頭前後)2年間で3〜4回出産するが、最近では5回の出産が可能になったそうである。考えてみれば人間に食べられるために生まれてくるようなもので、哀れと言えば哀れである。
小笠農業高校の農業科畜産(養豚)を専攻している3年生の生徒は4名。3年生になるとそれぞれ3頭の親豚(メス)の飼育をまかされる。生徒達は、この親豚の出産にも立会、子豚が大きくなるまで一切の面倒を見る。
子豚は6ヶ月くらいで肉豚として出荷されていく。生徒達は親豚や生まれたばかりの子豚に対しては愛情も移るという。ちょっと病気になっても悲しくなるそうです。しかし、肉豚に関してはある程度覚悟しているせいなのか、一般の商品が出て行く程度の感覚しかないようです。

豚がトンずらしたら?

豚も生まれたばかりはとても可愛い。思わず抱き上げてしまいたくなる。しかし、5、6ヶ月を過ぎる頃には100キロ〜150キロにもなり、とても抱き上げられない。しかひ、あの巨体を支えている足の細さ…。ちょうどハイヒールを履いているみたいです。だから、足が非常に弱く、豚を大事にしている人は豚の通り道にずっとムシロを敷き詰めてあげるといいます。この豚さん、時々豚舎を抜け出す事がある。小笠農高ではあまりないようだが、生徒の一人水野君の家では時々逃げ出す事があるという。「そういうときには、頭にきながら追っかけていく」そうです。豚は結構足が速いんです。「家中皆で追っかけて行くんだけど、なかなか捕まらないんです。あれは大変ですね。大きいから抱いてくるわけにもいかないし…。」
水野くん(3年生)
水野君は今年の研究発表で、親子の分業(本人が養豚、両親がお茶)をテーマに県下で最優秀賞を受賞した。今度、関東ブロック大会に出場する。彼は高校卒業後、専門の大学に進み、それから家業を継ぐと言っている。実家は現在養豚にはあまり力を入れていないが、彼が入ったら大きくしていくそうです。頼もしい限りであるが、始めからこの仕事が好きだった訳では内。「この学校に入って、やっている内に好きになった。」そうだ。彼の飼育した豚肉が食卓に並ぶのもそう遠いことではないようだ。
峯野くん(3年生)
養豚で大変な仕事は、毎日2回行う除糞作業。峯野君に一番大変な作業は?と聞いたら、すかさず「除糞作業!」と答えた。彼の家は養豚をやっていないし、本人もあんまり進む気はないようであるが、「やらなきゃいけなくなる時も来るかもしれないし、その時はやるともり…。」と言う。食事の豚肉は大好きだそうです。
大石くん(3年生)
小笠農高では親豚が分娩する時、生徒は宿泊実習といって、泊まり込みで看護する。こうして手をかけているせいか、彼は豚肉はあまり好きじゃあないという。全く食べないわけではないが、あまり食べる気がしないそうだ。彼が分娩に立ち会った内で一番多く生まれたのが14頭、少なかったときで5頭。少ないときは死産の子豚が多かったからだ。死産の時は悲しかったという。その代わり生まれてくる瞬間の感動はまた大きいものがあると言う。