いい湯だな in 掛川

Vol.5 1980年8月号掲載
 今月号は「掛川の温泉めぐり」。夏はプールや海、川で泳ぐだけが能じゃない。夏こそ温泉につかって汗をおもいっきり流そう。わざわざ遠くの温泉地に出掛けていかなくとも、自分たちの住んでいる周りにいくらでも湧き出ているのです。掛川の鉱泉は硫黄の濃度が濃くて健康や美容のためにもいいし、特に女性はお肌がすべすべしてとってもいいのです。掛川の温泉地はほとんどの所で昼間から入浴する事ができるし、入浴料も500円前後と他のレジャーと比較してみるとぐ〜んと安上がり。温泉はお年寄りが入るものという既成概念はこの際捨てて、今年の夏「日帰り温泉旅行」を楽しもう。宿泊もできますよ。(文:やなせかずこ)

  山峡のいで湯「くらみ温泉」
倉真川に住みついているアヒルはのんびりとしている。
 まずは、かの有名な「倉真温泉」から。倉真温泉には、落合荘、翠月、真砂館、松永荘、生湯、松葉狭と6軒の旅館があります。湯元は一号泉が落合荘、二号泉が真砂館でこの2軒で各旅館へ送りこんでいる。倉真温泉の始まりは昭和34年。それ以前から創業していたが、昭和34年に県の温泉分析に合格して温泉に認定された。

 倉真温泉は「緊張性低張冷鉱泉」。説明すると緊張性で低張の冷鉱泉。つまり…ようするに刺激が強く濃度が薄く温度の低い温泉なのです。(本当にわかっているのかな〜。)と呼ばれ無色透明で温度は摂氏18度前後。電気ボイラーにサーモスタットをつけて、常に摂氏42度を保つように沸かしているので、熱くもなくぬるくもなくちょうどいい湯加減。ちょっとぬめりがあってぬるぬるするが、このぬめりは硫黄なので身体にとってもいいのです。湯上がりはタオルで拭かないで自然乾燥させるのが一番良いとのこと。水は澄んでいてとてもきれいなので飲んでも害はない。害どころか体にも良いとのことで、わざわざビンに入れて持って帰る人もいる程。味はと言えば、硫黄泉のため卵の腐ったような臭いがするので決してうまくはない。
ロッジ風の旅館松葉狭

 旅館松葉狭は長さ88メートル巾6メートル高さ4.5メートルの松葉トンネルを抜けたすぐの右側にある。少し小高い所に外観が山小屋風の建物が建っている。眼下には池もあって、裏山には松葉城跡もある。ご主人は浜松の人で、とっても話のわかる方。ただし、こちらの旅館のお風呂はただのお湯です。庭には番犬が2頭いて、じっとこちらの様子をうかがっている。取材時は雨がザーザー降っているので、松葉城跡はあきらめて庭をグルッとひとまわり。ハッとして横を見るとイノシシがじっとこちらを見ている。よくよく見ればただの木彫りのイノシシ。「ああ、おどろいた!」新しいトンネルのすぐ横には昔のトンネルがそのまま残っている。入口には「通行止め」の標識があり、中は真っ暗闇。ここでまた冒険心が首をもたげて、中へ足を踏み入れると、冷たい風がすうっと身体の横を通り抜けるので薄気味悪くなって足が前に進まない。結局5〜6メートル進んだだけでした。顔のわりに気が小さいのです。あなたも挑戦してみますか?
驚いたイノシシの彫り物
橋を渡ると落合荘へ。
 落合荘は以前反対側の川向にあったとのこと、崖崩れですべて流されてしまって今あるところに建て直された。落合荘のすぐ横を流れている倉見川にはアヒルの親子が住みついている。昼間は親子で温泉旅行にでもいっているのか、いない時の方が多い。そして夕方になると必ず戻ってくるとの事。落合荘のご主人の話によると、この辺には、たぬきや野うさぎもいっぱいいて、いつもその辺をうろうろしてるという。先日は野うさぎが部屋の中に迷い込んできて、つかまえようと思ったら2階に逃げられてしまい、家中みんなで追いかけっこをしてしまったと、ご主人苦笑い。こんな事は日常茶飯事。まだまだエピソードはいっぱい。山間の静かな山村では事件と言えばこんな事ぐらい。非常にのんびりしていて、たまには都会(掛川は都会と呼べるかちょっと疑問に感じるがあまり気にしないで先に進もう!)の喧騒を忘れて温泉につかってくつろぐのもいいな〜。嗚呼、浮世の風はどこで吹く。
落合荘の源泉。1号泉です。
松永荘の露天岩風呂
 松永荘の入口には「岩風呂温泉」という看板がでている。「これは楽しみだ!」外の露天風呂を想像しながら中に入っていくと、なんと2階に案内された。部屋に案内されるのかと思ったら奥の方へどんどん入っていくではないか。一番奥の突き当たりが浴場になっていた。中は大きな岩がゴロゴロ。浴槽自体はあまり大きくないが、緑の木々がとても落ち着く感じがする。周りは全部囲ってあるが、作った岩風呂でなく裏山をそのまま使って浴場にしてあるので、他のジャングル風呂や岩風呂とはひと味違う雰囲気がある。誰もいなければこっそり入っちゃったのに残念でした。今でもそれが心残り……。


倉真温泉旅館案内
●生 湯 Tel:8-0911
●落合荘 Tel:8-0331
●翠 月 Tel:9-1021
●真砂館 Tel:8-0111
●松永荘 Tel:8-0401
●松葉峡 Tel:8-0250
生湯の入り口
落ち着いた雰囲気の真砂館
  法泉寺温泉
小杉館の新館
中央が滝本旅館。新館は10月落成。右側が小杉館の本館
 法泉寺温泉には滝本旅館と小杉館の2軒の温泉があり、開山宗能和尚の夢枕によって今から約500年ほど前に発見された所。湯歴は倉真温泉よりもずっと古い。掛川市街より原野谷川ダムに向かって(北方)車を走らせると15分位の所に「法泉寺温泉」という看板が道路の左側に出ている。

 滝本旅館小杉館は軒を並べて建っており、その手前には法泉寺という由緒あるお寺がある。このお寺にはめずらしい駕籠が2つも残っている。「駕籠に乗る人担ぐ人、そのまた草鞋をつくる人」ふとこんな言葉を思い出してしまった。こんなお駕籠に乗れた人はさぞ優雅な暮らしをしていたのであろう。今の時代なら、とりわけロールスロイスかリンカーンにふんぞり返って乗っている人種に値するのかな?うらやましい限り…。

 話がそれてしまったが、この法泉寺温泉の周りは十二支霊場の酉の守り神も祭ってあったり、法泉寺温泉の裏手を流れる法泉寺川には、女滝、男滝もある静かな山村。雨の降った後だと滝のしぶきが10メートル位まで飛んでくるという。2軒の旅館はちょうど女滝と男滝に挟まれて建っている。

 取材に行った日、滝本旅館の玄関の前には,、猪の皮が5枚も干してあった。1枚の長さは1メートル位。触ってみると毛がゴワゴワして硬い。猪の毛は書道の筆の毛に最も適しているとのこと。中身の肉は猪鍋、猪すきになってしまう。法泉寺温泉では猪鍋のほかに山菜料理や鮎、鯉の川魚料理などの山の味覚が存分に味わえる。温泉に入って美人になって(肌がきれいになる成分が含まれているので…。)おいしい料理に舌鼓。滝本旅館では希望者に肌がよりきれいになる美容食(果実)も付けてくれる。10月には新館もオープンする予定で現在建築中。小杉館には本館と新館がある。温泉の泉質は倉真温泉と同じ鉱脈にあるのでほとんど変わらないとのこと。
法泉寺にある駕籠
イノシシのスルメだ〜!
  石ヶ谷保養温泉
「硫黄泉のわらび山荘」
上西郷に「石ヶ谷保養温泉」があるのをご存じですか。今年の6月30日まで「石ヶ谷温泉・しょうざん荘」という名称で親しまれていましたが、8月1日より「石ヶ谷保養温泉・わらび山荘」と名前を改めて営業しています。老夫婦が管理しているので、いろいろな。面でのんびりとしている。場所は倉真方面に向かって北進していくと、石畑というバス停があり、そのちょっと先を桜木方面に向かって左折。そこから200〜300メートル先に看板が出ているのでそこを右に曲がる。電柱の案内矢印に従って行くと田んぼの中に一軒だけポツンと建っているのですぐにわかります。温泉とは程遠い感じもしないではないが、とにかく鉱泉がコンコンと湧き出ているのです。

この他にも「桜木太一の湯」もあって、掛川の北部には鉱泉の湧き出ているところがいっぱい!熱海、伊豆、舘山寺などの有名どころの温泉地とは違い、土産物店もないネオン街もない淋しい所ばかりだけれど、ひなびた感じが素晴らしい。あまり俗化されないでいつまでも今のままでいてくれたらいいな、と感じた取材でした。
しょうざん荘からわらび山荘と名前が変わりました。
  掛川の温泉の効用
どういう人に入浴効果があるかというと、慢性関節リュウマチ・筋肉リュウマチ・神経痛・陳旧性梅毒・変性梅毒・脊髄炎・金属中毒症・糖尿病・婦人科疾患・創傷の人。
反対に入ってはいけない人は、心臓病の代償機能不全・動脈硬化・高血圧・神経症・急性皮膚病・悪性腫瘍・急性伝染病・肺結核の人。
飲用は常習便秘・痛風・糖尿病・慢性気管支カタル・神経痛などに効果がある。結核性疾患や下痢傾向にある人は飲まないように。