PIERROT(ポピュラーバンド)
Vol.35 1983.2月号掲載 
左から:鈴木睦美・石原保彦・鵜藤明・橋本忠久・金原義明・坪井良久(敬称略)
 昨年の12月、ピエロというアマチュアバンドが「一番列車」というLPレコードの自主制作に成功した。作詞・作曲・ボーカルを担当したの鈴木さんは、15年位前から詩を作っていて、ひとつの区切りとしてレコードを作りたかったと行っている。夏頃から制作に取りかかっていて、およそ半年かかった。ピエロのメンバーはそのために組まれたバンド仲間である。

 鈴木さんにとって詩を書くことが全ての支えになっていた。苦しいときとか、誰かに打ち明けたくても打ち明けられない、悶々とした気持ちを詩に託した。詩で自分の気持ちを紛らわせてきたのである。全体的には暗い雰囲気の歌が多いけど、「歌詞なんかも顔からは考えられないような重みがある。」とメンバーが言うように出来栄えは上々である。15,16,17と私の人生暗かった、だけど30才の人生明るかった。今回の栄光に拍手!

 この絵以降の影には、鵜藤くんをはじめとするメンバーやレコード制作に携わった人々の協力が大きな力となっている。鈴木さんと鵜藤くんの出会いは、昨年、鵜藤くんが新入社員として掛川信用金庫に入社してきたことから始まる。彼等はここで劇的な出会いをする…。と、いきたいんだけど、まあごくごく普通の出会いだったんですね。人を介して知り合い、鈴木さんが「レコードを出したいんだけど手伝ってくれないか?」と言ったところ、鵜藤くんが快く引き受けてくれたので、話は決定。後のメンバーはすべて鵜藤くんが集め、企画や編曲も手がけてくれた。

 さて、ここでも例の台風18号の影響を受ける。キーボードの石原くんの家が水に浸かってしまったのである。メンバーの家が水に浸かり掛川の全体がピリピリしているときに、ギターを抱えて歩けない。へたに歩けば張り倒されそうな雰囲気が街中に漂っていた。全員、もうレコードは出せないんじゃないかと思った。結局街が落ち着くまで1ヶ月ほど録音が中断してしまった。
 なにせ、全員レコードを出すなんて初めてのことだったため、何度も録音に失敗し、常に緊張の連続であった。(当時の鈴木さんは緊張しすぎてメンバーの名前を覚えられない程だった)テープなら気軽な感じで出来るけど、レコードとなるとそうはいかない。「お金も掛かるけど、レコードはそういう意味で重みがあるから恐い。ダラダラやっていると結局ダラダラしたものしか出来ないと思ったので、録音するときは厳しくいきたかった。」と鵜藤くん。

そのおかげで、素敵なレコードに仕上がりました。興味のある方は是非聞いてあげて下さい。加川良が大好きという鈴木さん。その影響も多分に含まれているようです。レコーディングは兵藤楽器で行われました。(プロデューサー:鵜藤明/リミックスエンジニア:戸塚良次/フォトグラファー:松浦貞夫/アートディレクション・デザイン:永倉章/スペシャルサンクス:鈴木トオル・落合克己)

        


◆鈴木睦美さん(ボーカル)
好きな麻雀やパチンコを一切やめて、100%歌に没頭していきたいという鈴木さん。15年間の結晶が見事に花開いたわけで、喜びも一入。「本当は一人でもレコードを出す計画でいんだけども、僕一人の力ではとてもこういう形では出来なかったと思う。本当にみなさんに協力してもらったおかげで、良いレコードを出すことが出来ました。うれしいですね。これからは、もっとゆっくり、じっくり取り組んでみたい気がします。皆が口ずさめるような歌を作っていくことが、これからの僕の夢です。ほんとうにみなさんありがとうございました。」

◆鵜藤明さん(ギター)
「おらんのおっかさんが、すごくいいって言っていた。「あなたのメロディ」に出しないって言ってた。」そうで、強い味方が顕れて気を良くしている鵜藤くん。子どもの時から音楽が好きで学生時代も東京でよくコンサートをやっていたというベテラン。でも、今回に様な経験は初めてなので、「良い勉強に成りました。」バンド用に編曲するとき、鈴木さんの書いた詩のイメージが壊れないようにするのに苦労したそうであるが、出来上がったレコードには大変満足しているようだ。

◆金原義明さん(ベース)
市内の小学校の先生をしている金原くんは「今度生徒に聞かせてあげる。」と、大張切り。中学校の頃かなり目立ちたがり屋だったそうで、全校生徒の前でギター抱えて大奮戦。高校3年び時には鵜藤くんと2人で、学校内で行われたのど自慢大会に出演。しかし、ベースに関してはまるっきりの素人。それでも鵜藤くんに言わせると「音楽的にセンスがあるから上達がすごく早い。」そうである。レコード制作に携わっている間は、生活に張りがあったという金原くんは、「メンバーの足を引っ張らなかったとおもうから、その点では満足しています。」

◆橋本忠久さん(トランペット)
橋本くんの吹くトランペットが入っているのは2〜3曲しかないけど、山椒は小粒でもぴりりと辛い。トランペットが入ることによってその曲の盛り上がり方が違ってくる。だから、「間違えると一番目立つんですよね。」そういえば、「一番列車」のレコード制作発表のパーティの時、柄にもなく上がっていたのかちょっとミスしましたね。4年のブランクがあったのだからまあ当然かな。

◆石原保彦さん(キーボード・ピアノ)
かの有名な葛川屋の長男。高校の時は店のパンを学校に持って行っては1個10円で売りさばいていたというからすごい商魂の持ち主。でも彼はとても細かいところに気付く。無口(ちょっとこれはうそっぽい気がするけど)な人なんです。昨年の台風18号では、「水害で愛用のギターをながされてしまいました。もう大変でした。」彼も音楽的にはすばらしい才能を持っているんです。

◆坪井良久さん(ドラム)
彼はまだ学生で今は東京に住んでいる。レコード制作のためにわざわざ東京から足を運んで協力してくれた。鵜藤くんと一緒にコンサートをした仲間の一人でありますが、音楽的才能抜群の人だそうです。非常に無口で普段は余分なことは一切喋らない。ネコとじゃれているのが好きな人。しかし、シビアな所ではすごく恐い…。以前はギターをやっていたんだけど、最近はキーボードとかピアノに熱中しているそうです。